海外生活体験者・社会人インタビューvol.5


柳沢知樹さん。小学校3年生のときに渡米。高校卒業までの8年半、ボストンで過ごす。帰国後、東京大学教養学部文科1類に入学し、法学部第1類(私法コース)を卒業。社団法人共同通信社に入社し、記者として4年間活躍。在職中に司法試験に合格。その後、Irving B. Harris Fellowshipによりシカゴ大学公共政策大学院修士課程に入学、公共政策学修士(MPP)。現在は、東京永和法律事務所で弁護士として活躍している。

―海外生活が長いとお聞きしましたが?

小学校3年生からボストンに8年半滞在していました。大学院でもシカゴに2年間住んでいたので,アメリカ生活は通算で10年半になります。

―大学を卒業されてから、記者としてお仕事されていたんですよね?

共同通信の記者として4年間、事件事故や地方行政をはじめ、色々な取材をして、記事を書いていました。会社を辞めた後は、シカゴ大学で主に経済学や統計学の勉強をしました。その後、日本に戻り、弁護士をやっていますが、変わった経歴だとよく言われます。

―普段のお仕事はどんなことをされているか教えて頂けますか?

依頼者との打ち合わせ、法廷での弁論、裁判所に提出する「準備書面」の執筆などです。裁判は事前の準備がものをいう世界なので、僕は、徹底した判例・学説の調査を行い、それをふまえて、論旨が分かりやすい「準備書面」を書くために、多くの時間を費やしています。テレビドラマと違い、現実の弁護士の仕事はとても地味です。

―では、お仕事をしているなかで、帰国子女を意識することってありますか?

社会人になってからは、特にないですね。日本の大学生は非常に均質化された集団なので、学生の時は、自分が異質な帰国子女であることを否応なしに意識させられていたような気がします。でも、社会人になると、出会う人は実に多種多様なので、帰国子女を意識する必要性がなくなりました。

―帰国子女であるメリットって何だと思いますか?

人それぞれでしょうけど、僕にとっては何より、アメリカ人と同じように英語が使えること。

あとは、子供の時に、言葉も何も分からない外国にいきなり放り込まれたわけですけど、そこから這い上がって、アメリカの大学にも高校を1年飛び級して合格できたという経験から、「自分はどこでもやっていける」という自信を得られたことでしょうかね。

―弁護士として大切にしていることは何ですか?

人の信頼を大切にすることです。まあ、信頼が大切だということは、どの世界でも同じだと思いますが。

弁護士を依頼する方は、何かしら問題を抱えていて、それを解決したいと感じている方です。依頼者から「この弁護士に任せれば大丈夫だ」と信頼されなければ、仕事ができません。

弁護士としてはもうひとつ、裁判所から信頼されることも、とても大切です。判例や学説を十分に研究し、証拠を吟味した説得力のある主張を準備書面にまとめて、「この弁護士の言うことだから、信頼できる」と裁判所に思ってもらえることが、重要だと思っています。

―司法試験・ロースクールを目指している人に何かアドバイスはありますか?

弁護士についての話になりますが、今の時代は、弁護士になってからが勝負です。一昔前は司法試験の合格者が少なかったため、弁護士であること自体に希少価値があったのかもしれませんが、今は司法試験の合格者が増えているので、弁護士になれば人生バラ色というわけにはいきません。

そのため、今弁護士を目指している人は、「それでも、なぜ弁護士になりたいのか。弁護士になって、何をしたいのか」という目標意識を明確にする必要があると思います。

―将来の夢はなんですか?

弁護士としては、社会的にインパクトがある判決を勝ち取りたいです。

日本社会のあらゆるレベルで、許せないこと、正義に反することが多々あるかと思います。ただ、政治過程を通じてそのような問題を解決するのは、一個人の力ではほとんど絶望的です。

しかし、裁判というのは、一人の弁護士が裁判官を共感させることができれば、判決で、憲法に違反した法律を無効にさせることさえもできます。また、弁護士が勝ち取った判決は、その事件の当事者を超えて社会全体に影響力を与え、それがきっかけで社会問題が改善されることもあります。裁判というのは、それだけインパクトがあるものなのです。

判決を勝ち取ったときは、事件の大小に関わらず「よしっ!」という爽快な気持ちになりますが、その達成感を、社会的意義の高い事件で感じられるようになりたいと思っています。

―就職活動を行うに当たって何かアドバイスはありますか?

自分のセールスポイントを明確に意識し、それを分かりやすく売り込むことが大切だと思います。学生から「採用してください」とお願いするような受け身の態度ではなく、会社に「この学生は絶対に採用したい」と思わせることが大事です。

あと、就職活動についてではなく、働き始めてからの話なのですが……。働き始めると、多かれ少なかれ、入社前のイメージや期待に添わない点が出てくるでしょう。でも、そうなったとしても、すぐに辞めないで、3年くらいはその仕事を続けることが大切だと思います。

入社時の自分は、社会人としては未熟な自分です。その会社で働けばどんなスキル・経験が得られるかを、正確に想像することはできないでしょう。しかし、無駄だとか、つまらないと思ってしまう仕事でも、3年くらい続けていく間に、入社時には想像のできなかった体験をしたり、知識を身に付けることができます。会社は、自分のHuman Capitalを高める知識や技術を身につけさせてくれる上に、給料まで払ってくれます。これを利用しないのは、もったいないです。

僕自身、大学を卒業したとき、将来記者から弁護士になるとは想像できませんでした。また、生意気にも、入社式の役員挨拶・講話に退屈して、入社初日から会社を辞めようと思ったこともありました。しかし、4年間の記者時代に培った取材力、文章力は、今でも、弁護士として仕事をする上で、この上なく役に立っています。

―最後に、大学生に一言アドバイスをお願いします。

何でもいいから、熱中できることに4年間を使って、自分を限界まで追い込んで欲しい、ということです。

ある時期に限界まで集中して何かをやった、という経験があるかないかで、その後の人生で発揮できるエネルギーのレベルが変わってくると思います。そういう経験がない人は、困難な状況に出会うと、すぐに物事を諦めてしまうような気がします。熱中する対象は、後のキャリアに直接は役に立たないことでもいいのです。現実的になるのはいつでもできると思うから。

ちなみに僕は、留学中に、自分にあまり才能があるとは思えない数学の勉強に相当時間を費やして、必死に授業をこなしていました。弁護士となった今、勉強していた内容は全く仕事の役に立っていませんが、その勉強をしていた経験は、少なくとも、弁護士として困難な仕事に直面したとき、「この仕事は難しそうだけど、数学を勉強するほどには難しくないだろうから、何とかなる」と思えるような、今の自分の妙な自信の裏付けになっています。

インタビューアから一言

一つ一つのお話を、論理的に、なおかつ、わかりやすくお話して頂いて、私もこんなふうに、わかりやすく人に何かを伝えたいと思いました。どのお話も興味深かったのですが、「熱中できることに4年間を使ってほしい」と仰っていたのが、一番印象的です。それを聞いてから、「私も、何かに限界まで挑戦してみたい」と強く思っています。お忙しい中、お話をしてくださって、本当にありがとうございました。

秋山雪乃。1986年京都府生まれ。中学2年まで日本で過ごし、その夏に渡米。カリフォルニア州サンディエゴ・アーバインなどに滞在し、高校2年の年に一時帰国。その夏、再び渡米。帰国後、早稲田大学法学部に入学、現在二年に在籍。学生NGOチャオに所属。