海外生活体験者・学生インタビューvol.18


伊藤ニコラさん。1986年大阪府生まれ。生後直ぐ東京へ移り、3歳まで日本に滞在。その後、イギリスで小学校2年生まで過ごし、日本へ帰国。小学校5年生の終わりに、今度はフランスへ。中・高をフランスの現地校で過ごし、卒業後1年間、美術大学のプレパ(予備校)へ。その後、日本へ戻り、現在早稲田大学人間科学部1年に在学中。
若林(以下W):では、インタビューお願いします。
伊藤(以下I):はい。あの、これ、やっぱ敬語じゃないとダメですか?
W:え?(汗) いや、別に……。タメ口でも。
I:じゃあ、そっちで。話しやすいし……。
W:はーい(笑) 同い年だしね! 分かりました。

こんな感じで、インタビューはフランクに始まりました。
フランスの高校に行っていたニコラ君。そこでは、サイエンスを履修していたそうです。

絵じゃないと、俺生きていけないな、みたいな……

W:あれ? アート系じゃないの?
I:いや、興味あるのがバイオロジーとかケミストリー、フィジックスとかで。まぁ、数学は大嫌いだったんだけど、そこはちょっと頑張って(苦笑) で、そういう進路を決めるのが、高校2年なんだ。高3になって、やっぱり絵じゃないと、多分俺、生きていけないなって。
W:おぉ。じゃ、そっから転身?
I:いや、もともと。正直、絵じゃないと、満足に人生生きられそうな気がしないっていうか。
W:きたね、アーティスト! じゃあ、何でそのままプレパ終わって美大行かなかったの?
I:うーん、プレパでやってたのは、大きいキャンバスにペンキで描くとかで。それも凄い楽しいんだけど、俺がやりたいのは漫画とか映画だから、正直時間の無駄みたいな……。
W:あぁー、ファイン・アートって良く分かんないよねぇー。でも、その後美大行ったら、専門化されるんじゃない?
I:いや、そうなんだけど、漫画だって、映画だって、そんなの別に勉強しなくても、常に読んで、常に見てやれば良いわけで。本だって、いっぱい出てるし。だから、むしろ物語を人に伝えたり、シチュエーションを作ったり、アイデア出したりが大切で、そうしたら一般教養とか、そういうのが重要になってくると思うから。それで、結局早稲田の人文科学を選んだんだよね。それに、そこでもう一つ問題があって……。50%日本人だってこと。

帰国生っていうより、留学生

W:んー、そっか。じゃあ、帰国生であることについて、どう思ってるか教えて下さーい。
I:いや、なんかね、帰国生って感じじゃなくて、どっちかというと、自分のことを留学生って言う方が好きなんだ。9年間も外国住んでると、日本人よりも、むしろ外国人みたいな? 日本語喋れる外国人、日本文化を少し理解してる外国人みたいな? だから、日本的な考えに時々ついていけないこともある。
W:例えば?
I:あー、例えば、その「空気を読む」だとか~、「本音と建前」だとか~。
W:あぁ~。あるある。
I:そういうのが、割とキツイ。それに、なんだろう、日本がまだ自分の帰る場所になってないんだよねぇ。むしろフランス? 
W:さっきの50%?
I:まぁ、それがどうしたもんかなぁって。こっちでちゃんと自分のアイデンティティみたいなの、しっかり作っておきたいなぁって……。
W:そっかぁ、ちょっと悩んでしまったんだぁ。
I:いや、結構悩んだ。
W:あ、ごめん。「ちょっと」じゃなかった!
I:うん。日本で生活して、どれくらい、自分が日本人か知らなきゃいけなかったから……。格好いいいこと言ったら、それをしなかったら前へは進めなかった。
W:そっか…。今は?
I:今は、フランスと日本のバランスが取れつつあるから、それは凄く嬉しい。日本に来て良かったことだよね。

結果オーライ

W:他になんか苦労したこととかは?
I:3年掛けてフランス語はようやくねぇ、なんとなく喋れるようになった。
W:えぇ~?!
I:あのね、なんとなくショックだったのが、中3になって歴史地理の先生にテスト返してもらったときに、「伊藤君、このフランス語、まるでフランスに来たばっかりの人のようなフランス語だよ」とかって言われて(笑) その時はもう、4年くらい経ってたのに、そんなこと言われて、「えぇええええ?!」みたいな感じで(笑)
W:うわ~~。ガーンッとくるよね! でも、話し言葉と書き言葉って違うんでしょ?
I:うん、それは違う。だから、地理とか歴史とかは、最後まで苦手だったな。文系は好きだったんだけどね、フランス語ってことでちょっとね。
W:でも、やっぱ数の数え方とか、フレンチは難しいと思う。意味わかんないもん!
I:あぁ、あれね(笑) あれは商人が始めたらしいよ(以下説明が続く)。
W:へぇ~。そうなんだぁ~。でも凄いよね。凄く面白い経歴だけど、凄く大変だともお見受けします~。
I:うん、大変でした。でも、今になればそのお陰で、ちょうど良いタイミングでイギリス行って、ちょうど良いタイミングで日本行って、ちょうど良いタイミングでフランス行って、こうやって3ヶ国語喋れるようになったから、結果オーライみたいな(笑)
W:そういえるのは、凄いよー。

クリエイターになりたい

W:じゃあ、将来は?
I:いや、普通にクリエイターです。でも、なんだろうな、最終的には、漫画を描くこと。
W:ん? 漫画家?
I:いや、漫画家じゃなくて、漫画を描くこと。
W:???
I:微妙な違いがあって、漫画家っていうのは、連載とか持って漫画で生きていく人。俺は、多分、連載とかそんなのは出来ない。辛いから、厳しいから。だから、映像の監督みたいなことをやって、多少名が売れたら、漫画を書いて、それをちょっと何処かへ持っていくみたいな。
W:あぁ~、常にはやらないんだ?(笑)
I:うん、常にはやらない(笑)

フランスのクリエーター&日本のクリエーター

W:じゃあ、どこで?
I:んー、フランスに帰るかもね(笑) でも、これはまだ分かんないよ。
W:ほんとに?
I:いや、これは本当に「?」なんだよね。あのね、多分、日本では自分のしたいクリエーションっていうのが、性格的に出来ないと思うから。っていうのは、こっちのクリエーションは、凄い情熱的なんだよ。なんか、情熱がないと出来ないっていうか。ほとんど寝る間も惜しんで、映画だとかなんだとかやってるから。皆私生活を捨てて、仕事と趣味のためだけに生きてる人たちばっかりだから……。俺は多分、それが出来ないんだ。
W:ん? うん。じゃあ、どうすんの?
I:だから、フランス戻ってクリエーションをする。
W:会社に入るの?
I:いや、フランスは、ほとんど皆フリーランス。クリエーターは皆そう。
W:へぇ~、駆け出しでも?
I:駆け出しのときは、それこそポートフォリオ持って、どっかの会社行って、「こういうことやってます、どうですか?」って。それで、「あ、いいね。今こういうプロジェクトあるんだけど、関わってみない?」とかって感じ。だから、プロジェクト毎の契約なんだ。
W:へぇ~。
I:そう、だからまぁ、収入は不安定なんだよね。実力があれば、どんどん入ってくるし、なければ横でちょこちょこやって、違うことするしかない。
W:バイトで生計立てるとか?
I:うん。
W:本当の実力主義なんだ。
I:でも、多分そっちの方が肌に合ってるから。会社に入っちゃったりすると、何か常に無理やり感があるかなぁってね。無理やり作らされて、無理やり働かされてって。
W:嫌なこともしなきゃって?
I:うん、まぁ、もちろん、嫌なことはどこにでもあるんだけど、まだフランスの方が、クリエーションを中心に出来るかなって。

インタビューアから一言

今回、ニコラ君とお話をして、二つのアイデンティティ、三つの言語を操ることの楽しさと大変さを感じました。それでも、アートというボーダレスな言語が彼の一番の強みであり、輝きなのかもしれません。自らの意思とは関係なく、異なる環境に次々と置かれながらも、それに対処対応し、きちんと一つずつクリアした上で、今そのことを「良かった」と言える彼は、本当に凄いと思います。他にも弟思いの優しい一面を見せてくれたニコラ君。今回全てを書ききれずとても残念です。。。

若林志帆。1986年広島県生まれ。高校2年まで外国とは無縁に過ごす。17歳の冬、無謀にも単身渡英。語学学校を経て、現地の高校へ。ケンブリッジで2年間の高校生活を送り、卒業後帰国。現在は慶應義塾大学法学部政治学科1年に在学中。