活動報告 「世界の学校から」vol.2 清水将吾

今回は、英国のウォーリック大学に留学中の清水将吾さんに、大学院での学生生活の様子を報告して頂きます。若き哲学者の学究生活をご覧下さい。

清水将吾さん。1978年、東京都出身。3歳から小学校4年までをシンガポールで過ごす。帰国後、高校1年まで日本に住んだのち、アメリカ・ケンタッキー州の高校へ転校、卒業まで2年間アメリカに滞在する。高校卒業後は帰国し、慶應義塾大学法学部に入学。大学卒業後、千葉大学の哲学科(修士課程)に進学、博士課程3年時まで同大学に学ぶ。‘06年、渡英し、ウォーリック大学に入学。‘08年に同大学で修士号を取得。現在、同大学博士課程に在学中。日本の哲学者、永井均の著作の英訳にも取り組んでいる。共訳書に、バリー・ストラウド『君はいま夢を見ていないとどうして言えるのか』(春秋社)。

活動報告

イングランド中央部の町、コベントリーからバスで20分ほど行くと、のどかな野原と丘に囲まれたキャンパスがあります。それがウォーリック大学です。僕は、そのウォーリック大学の博士課程で、哲学を勉強しています。住んでいるのは、キャンパスのそばの学生寮です。これから僕の1日をご案内します。

いまは朝の7時半。2月の寒い朝です。授業まで少し時間があるので、ゆっくりキャンパスまで歩いてみましょう。

赤レンガの寮を出ると大きな池があって、たくさんのアヒルや鴨がいてかわいいです。時にはスワンのカップルに会うこともありますよ。娯楽が少ないというのもありますが、キャンパスのはずれには、こうやって池があったり、きれいな川が流れていたりするので、散歩やジョギングを趣味にしている学生が多いです。さて、池の橋を渡り、草原の中の道を歩いていくとキャンパスに到着です。

キャンパスは打って変わって近代的です。イギリスには、歴史ある建物が立ち並ぶ大学が少なくないですが、ウォーリック大学は、1965年に設立された比較的新しい大学なのです。学生数は約1万6千人。そのうち、約3分の1もが大学院生で、大学院研究に力が注がれています。それから、学生の約2割がイギリス国外からやってきた学生です。そのため、キャンパスはいつも多文化的な活気に満ちていて、ありとあらゆる国の人に会えるのは、とても刺激的です。大学に対する社会の評価も高く、ランキングの類では、常にトップ10内に入っています。

キャンパス周辺が完全な田舎なので、大学内で何でもできるようになっているのは助かります。スーパー、銀行、レストラン、それから、映画館やコンサートホールまであります。夜、映画を観に行くと、映画や演劇を観に来た人たちで賑わっていて(お年寄りや家族連れもたくさん来ています)、何だかワクワクします。ところで、実は僕も今日知ったのですが、ウォーリック大学はイギリスのベストキャンパスに選ばれたこともあるそうです。へえ、もっと利用しなきゃ。あ、そろそろ授業が始まる時間です。

 今日は「意識と実在」の授業です。他の大学ではどうかわかりませんが、面白いことに、こちらに来てから、先生が講義の中で自説を述べるのを、ほとんど聞いたことがありません。それよりも、あるテーマについて全般的で体系だった知識を学生に与えていくということが、もっぱらの目的とされているようです。セミナーの議論なども同様で、課題の論文が論争の中でどのような位置を占めるのかということを論じながら、論文の構成をクリアにしていくことが目的とされます。先生や学生が論文のテーマについて自分の考えを言うということはまずありません。話が盛り上がって論文の外に話がそれるということもありません。そこをきちんと取り仕切るのが先生だということになっています。ですから、セミナーの議論はひたすら地味です。哲学という分野でこの教育方法が果たしていいのかどうか、考え込むこともありますが、まあとてもためにはなりますし、こういうことを考え込んだりするのも勉強かなと思っています。

カフェテリアでお昼を食べてコーヒーを飲んだら、午後から指導教官の研究室で面談があります。博士過程の学生は、月に1、2回、各自の指導教官と面談を行い、それを主な研究活動としています。面談の前日までに、短いエッセイや疑問点などを書いて指導教官にメールで提出し、当日はそれに基づいて話し合うというわけです。ここでも、指導教官は自分の見解については、ほとんど触れません。学生の議論の明確でない箇所を指摘し、ありうる反論を示し、読むべき文献を挙げてくれます。それを持ち帰って、今度は次回の面談の準備を始めるということを、みんな繰り返しています。こちらが外国から来ているといって、手加減はしてくれないので、面談のあとはへとへとです。ふう。レストランで紅茶でも飲んで一休みしましょうか。

このあと、5時から1時間ほどサークル活動があるんです。僕は語学交換サークルに入っていて、そこで日本語を教えています。日本や日本語に興味のある人が週に1度集まってきて、日本語会話の練習をします。最初は緊張しましたが、やるうちに楽しくなってきました。英語で説明しなきゃいけない時もあるので、英語の練習にもなるし、何よりも友達ができたのがよかったです。日本の大学と一緒で、いろいろな種類のサークルがあるので、もし留学の機会があれば、気軽に入るといいと思います。

 友達と言えば、現地の人々と触れ合うには、日曜日に教会に行くというのもいいですね。キリスト教徒でない僕のような人でも歓迎してくれます。地元の人々がどのように祈り、どのように教会を通じて関わりあっているのかを見るだけでも、興味深いものです。礼拝のあとには、あちこちの家でお茶会が開かれていて、これまた誰が行っても歓迎してくれます。きれいな庭を見ながら、伝統的なお菓子を囲み、集まってきたみんなでゆっくり話をする。いい習慣ですよね。

さて、あっという間に1日も終わりです。もう帰ってもいいのですが、サークルの友達と学内のパブに行ってみましょう。パブは夜遅くまでたくさんの学生で大賑わいです。みんなビールを片手に大声で話しています。席は空いてるかなあ。とにかく僕らも何か注文しましょう。もちろんおごりますから。

 こんなふうに大学を見てくると、まるでいいことずくめのように見えるかもしれませんが、やっぱり人生はそんなふうになっていません。まず、細かいことを言えば、大学の規模に対して、図書館が小さめのように感じます。それから、たしかに大学の環境はすばらしいのですが、やはり田舎なので、長い間いると物足りなく感じることもあります。だからなのか、週末になると寮から町へ出かけていく人が多いです。

コベントリーはあまり大きな町ではないですが、それなりに活気があり、大きな市が立っていたり、中世の面影を残す通りがあったりと、意外と奥の深いところです。大学からコベントリーとは反対方向へ行くと、ケニルワースという城跡のある町にすぐに着きます。ここは小さくて静かで、ちょっとかわいい感じの町です。人も優しくて、おいしいイタリア料理屋、インド料理屋、マレーシア料理屋などもちらほらあり、僕は結構ここが好きです。

そして長期休暇に入ると、みんな我先にと飛行機で飛び立っていきます。イギリス国内はもちろん、ヨーロッパ各国に気軽に旅行に行けるというのは、イギリス留学の魅力の一つかもしれませんね。

最後に、イギリスの大学院留学に関心のある方たちへ。僕は、このウォーリック大学に来て、こちらの大学院は文献を大量に読ませ、エッセイを大量に書かせるという印象を持ちました。大学院生たちはいつも課題に追われています。だから、留学には強い目的意識が必要……と、格好いいことも言ってみたいのですが、そうではなくて、とりあえずどこかに入学してしまおうということでいいと思います。来てしまえば、異国で頑張っていかなきゃいけないという状況に、嫌でも置かれることになるので、それだけでも大いに学ぶことはあると思います。一緒に頑張っていきましょう!