活動報告 「世界の学校から」vol.4 Y.N

今回は、外務省の研修の一環として英国に滞在されているY.N.さんに、オックスフォード大学についてご紹介頂きます。伝統と格式で知られる大学も、さすがに変革の波に洗われているようですが、その一方で、厳粛かつ壮麗な雰囲気もまだまだ健在のようです。また、歴史に裏づけされた指導と研究の質の高さも変わりないようです。Y.N.さんに誘われて、ひととき、ハリーポッターの世界を満喫させてもらいましょう。

Y.N.さん。1981年生まれ、大阪府出身。5歳から高校卒業までスペイン・マドリッドで過ごす。現地の高校を卒業後、日本に帰国し、京都大学法学部に入学。在学中は国際法ゼミと行政法ゼミに所属。大学卒業後、外務省に入省。2年間東京で勤務した後、英国に渡り、ロンドン大学キングス・カレッジで国際関係学の修士課程を修了。現在は、オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジに所属しつつ、東洋学部日本研究科に在学中。

活動報告

学園都市としてのオックスフォード

私が現在所属しているオックスフォード大学と言えば、ハリーポッターの舞台となったことや不思議の国のアリスの著者が所属したことでも有名ですが、英語圏最古の大学という伝統と革新的な研究機関としての評価を兼ね備えた、世界有数の大学としても知られています。
大学があるオックスフォード市は、ロンドンから電車で1時間程、「英国を象徴する地域」としても有名なコッツウォルズの丘陵地帯に程近いところに位置する歴史的な街です。英国の小型自動車として、世界中で愛されているBMWの「ミニ」の工場があることでも有名ですが、街の発展の要となっているのが、11世紀頃に設立されたオックスフォード大学です。

オックスフォード大学の中核をなすのがカレッジ制度、そして、図書館と研究施設です。カレッジ制度とは、大学を構成する39の独立したカレッジと7つのホールのことを指し、教授及び学生は大学に所属するとともに、いずれか1つのカレッジに所属しなければなりません。各カレッジが基本的に学生の学習及び生活指導の責任を負います。これに対して、大学は基本的な学習及び経営方針の決定、試験の実施、卒業証書の授与という事務的な役割を担っています。一見非効率に見えるカレッジ制度ですが、教授及び学生の中に強い共同体意識を芽生えさせ、カレッジ間の競争を煽ることにより、施設や研究の質を高め、少人数体制故に学生への手厚いサポートを可能にしています。

図書館は、カレッジ、学部及び研究施設のものを含めると100を超え、英国で最大の大学図書館を形成しています。その中でも、大学の中央図書館ともいえるボードリアン図書館は、大英図書館に次ぐ大きさで、所蔵棚を繋ぎ合わせると150kmにもなると言われています。また、研究機関としても、英国で最大の規模を誇るだけでなく、研究を商業化する様々な斬新な取り組みを採用するなどして、国内外から高い評価を受けています。

これらのカレッジ、図書館、研究施設は、オックスフォード市内に点在し、学園都市という名のとおり、大学と街がバランス良く共存しています。多くの建物は何百年もの歴史があり、オックスフォード独特の重厚かつ格調高い、アカデミックな雰囲気を作り出しています。また、建物とともに街の重要な構成員であるのが、伝統的なガウンやタキシードを身にまとう教授と学生です。伝統を重んじるオックスフォード大学では、入学式、卒業式、試験日のみならず、毎週あるカレッジのフォーマル・ディナーなどの行事用に、教授や学生が昔さながらのガウンやタキシードを頻繁に着用して街を歩いており、これらはオックスフォードの厳粛かつ壮麗な雰囲気に欠かせない要素となっています。

オックスフォード大学の姿

オックスフォード大学を語る上で欠かせないのが、伝統と改革という要素です。先ほども少し触れましたが、オックスフォード大学の特異な個性を成しているのが、伝統への強いこだわりだと思います。例えば、全寮制の修道士養成学校を起源とするカレッジ制度、学校行事における厳格なドレス・コード、ラテン語で行われる入学式や卒業式、カレッジのダイニング・ホールにおけるハイ・テーブル(教授の座席が学生のより一段高くなっていることからこう呼ばれています)の存在など、例を挙げると切りがありません。

カレッジ制度について言えば、各カレッジには平均して400人程度の学生しかいないため、学部生などは個人面談(チュートリアル)という形で手厚い指導を受けることができ、これがオックスフォード大学の伝統となっています。また、前述の学校行事における厳格なルールやマナーの徹底も、規律を重んじるオックスフォード大学の伝統であるとも言えます。格調高い入学式のしきたり、試験時におけるガウンの着用、夕食時における教授への礼儀など、大学としては時代遅れのようにも思えますが、学生に高い意識と気構えを持たせることに貢献しているとも言えます。

しかし、オックスフォードの伝統も、時代の流れとの調整を余儀なくされています。例えば、2003年には大学が管理していた独自の警察部隊が解散させられたり、2008年からは唯一残されていた女子限定のカレッジが共学になったりと、時代にそぐわない伝統が見直されつつあります。伝統と改革の間での葛藤は激しく、例えば、学生から反対の声が強い試験時のガウン着用、現学長が提案した教授に対する業績評価や学術評議会が決定権を持つという伝統的な意志決定方式の見直しは、大きな議論を呼び起こしました。伝統的な良さが強調されがちなオックスフォード大学ですが、伝統と新しい時代の要請との狭間で、質の高い研究を維持するべく揺れ動いているというのが実際の姿のように思えます。

オックスフォードでの大学生活

さて、オックスフォードでの私の大学生活について少し話したいと思います。私は現在セント・アントニー・カレッジに所属しながら、オックスフォード大学の日本研究所にて修士課程を履修しています。

私が所属するセント・アントニーズ・カレッジは、国際関係や地域研究を専門とする教授及び学生を中心とする、大学院生限定のカレッジです。オックスフォードにしては、比較的新しいカレッジですが、国際色の豊かさという意味では、大学内でも群を抜いています。


私は、カレッジ内に住んでいるため、図書館や研究所で勉強をしている時以外は、カレッジで過ごしています。カレッジでは、フォーマル・ディナーやカレッジの教授との交流会等の行事、講演会やセミナー、また、サークル活動などが頻繁に行われており、これらに参加することで、教授や他の学生との交流を深めています。

私が主に勉強をしている日本研究所は、1981年に設立され、世界でも有数の日本研究の学術機関として知られています。日本の歴史、文化、社会、政治等、幅広く研究が行われていますが、特に、英国の強みでもある社会人類学からの日本の分析や人権の側面からの分析に力を入れているように思われます。授業は、講義形式のレクチャーと議論を中心とするセミナーで構成されており、日本研究所に所属している者のみならず、他の学部からの聴講生も参加し、活発な意見交換が行われています。また、指導教官からは、月に1回のペースで、研究についての個人指導を受けます。その際には、曖昧な点の指摘のみならず、研究の理論的な位置付けや具体的な方法論について、徹底的に議論させられます。

専攻研究及びカレッジ・ライフ以外での楽しみと言えば、大学のあらゆる場所で行われている講演会やセミナーです。著名な政治家、実務家、学者の講演会やセミナーが、毎日何件も同時並行的に行われており、関心のあるもの全てに参加しようとすると、身がもちません。また、講演会やセミナーの後には、ワインが振舞われる場合が多く、学部及びカレッジ外の人と話す絶好の機会として活用しています。また、楽しみと言って忘れてはならないのが、パブでのビールです。研究所やカレッジ、また、講演会やセミナーで知り合った人とパブで地ビールを飲みながら語らい合うのは、オックスフォードのみならず、もはや英国の伝統です。

最後に……

英国文化を凝縮したような大学で、900年もの伝統を肌で感じながら知的好奇心を存分に満たすには、オックスフォード大学は打ってつけの場所です。改革に揺れつつも、歴史に裏付けされたオックスフォード大学の指導方法や研究の質の高さは、今でも国内外の研究者を惹きつけています。関心のある方は、是非とも一度オックスフォード大学の中に身を置いて、英国を支えた伝統と時代の改革の波を感じてみてください。

University of Oxford のHP
http://www.ox.ac.uk/