海外生活体験者・社会人インタビューvol.26 ~後編~

interviewee_s_63_profile.jpg フィリップ・オステン(Philipp Osten)さん。1973年ドイツ生まれ。外交官の父のもと、世界各国に滞在。中学時代に来日し、慶應義塾大学法学部法律学科へと進学。ベルリン・フンボルト大学法学部卒業。慶應義塾大学とベルリン・フンボルト大学の大学院にて、法律学を研究。法学博士。ドイツの弁護士資格を持つ。現在は慶應義塾大学法学部准教授。専門は刑法、国際刑事法、司法制度論。

―慶應義塾からドイツの大学へ行き、そして、再来日されているということですが、何故また日本に戻ってこようと思われたんですか?

日本で就職することを最初から考えていたわけではなくて、むしろ、とりあえず大学院に行こうと思っていただけです。一つのことに集中して、奥の深いところまで追究することは結構好きだったので、博士論文を書くことは、結構早い段階から、常に選択肢の一つとして考えていたんです。うまい具合に奨学金もおりたので、日本とドイツの東京裁判とニュルンベルグ裁判という、半分法律学的な半分歴史学的なテーマについて、ここで博士論文を執筆したわけです。

ただ、別に研究者になろうと思っていたわけではなくて、色々なオプションを残しながら、とりあえず、一旦ドイツに戻って司法修習をしようと思っていたんです。で、向こうのその実務修習をしていたら、ある日突然、日本の指導教授から「履歴書をよこせ」と電話がかかってきたんです。その方が法科大学院に移る関係で、私を後任者として推薦してくださったんです。これは二度とないチャンスだと思って、慶應に教員として着任させていただくことになりました。あんまり計画的なことではなかったんですけど、いい機会に恵まれて感謝してます。

―先生は、一般的には聞きなれない国際刑事法を専門に研究されていますが、興味を持つようになったきっかけなどを教えていただけますか?

国際刑事法というのは、国内刑事法の国際的な側面と、国際法に属する刑事法的な側面を、網羅的に取り上げようとする学問領域です。比較的歴史が浅いので、まだあまり知られていないのは事実なんですけど、これからますます知名度が上がっていくんじゃないでしょうかね。そこですね。つまり、あまり他の人がやってない分野だという点に魅力を感じたんです。

例えば、普通の刑法ですと、何説だとか、判例の蓄積とかもあるけれど、国際刑事法っていうのは、まだ決まった学説があまりない。自分の独創性が結構求められるわけです。それに、多くの国の学者と交流できるっていう面もあります。日本では、国際刑事法を専門としている人は、今でも非常に少ないんですけど、私が大学院に入ったころは2、3名いるかどうかっていう世界だったんです。そういった、新しい学問分野を開拓して行くという点に、やりがいを感じますね。

―そもそも、研究者の道を選んだ理由はなんですか?

いつか機会があれば、研究職もいいかもなという程度の、漠然としたイメージはあったんですが、最初からそれを目指していたわけじゃなくて、むしろ、最初は弁護士か検察官、あるいは、外交官などの実務家になることも考えていました。結局、あまり深く考えないうちに、さっきいったような形で慶應でのポストが回ってきたので……。外国人として正規の法律科目を教えるっていうのは、慶應では初めてのことだったんです。そういう事情もあったので、よしやってみようという気持ちになったんでしょうね。

―もし、法律と関係ない仕事に就くとしたら、何かしたい仕事はありますか?

難しいね……。うーん、なんだろう。温泉のガイドブックを書くことくらいかな(笑) 温泉が大好きで、日本各地、あんまり紹介されていないようなところにも行きますし。そういう本をいつか書こうかなと、前から思ってて。日本人向けでもいいし、外人向けに書いてもいい。日本の温泉文化っていう素晴らしいものを、もうちょっと宣伝してもいいかなぁと。ドイツにも温泉はあるけれど、室内プールみたいな感じで、全然面白くないんですよ。

まあ、この話は半分冗談で……(笑)

―研究者とは、職業としてどのようなものですか? なにか決まった日常はありますか?

ないですね。研究者のいいところっていうのは、自由に自分の時間の配分を決められるところ。人によっては、朝が苦手っていう人も結構多いんですが、そういう夜型の人は、授業は全部午後にやって、夜中に研究する。そういう同僚は結構いますね。逆に朝に仕事をして、午後は家に帰る人もいますし。

まあ、そういうところはサラリーマンの世界とは違うんですね。やっぱり自由に、自分の好きな勉強・研究を、自分が好きな時にできる。それから、毎日指示を出す直属の「上司」もいないわけですね。その分、一人で責任を持ってやらなくてはいけない。

―研究者のやりがいとはなんでしょうか?

自分が本当に興味を持っている分野の最先端の情報を収集して、それをベースにして、自分のアイデアを、論文などを通じて発信できる。そういった形で、学術的な対話に参加できるところに、一つのやりがいを感じるんです。

それから、研究だけじゃなくて、教育もできるという面もあります。学生と常に交流して、学生から刺激を受けることもあるし、学生に知的な好奇心が沸いてくるのを見るのは、私としては、すごく楽しい仕事ですね。

―逆に、苦労すること、嫌なことは?

一切ない!……ウソウソ(笑) それはどこの職場にもありますね。でも、多分、サラリーマンのような環境と比べれば、少ないかも知れないですね。すごく負担に思うようなことは、今のところ、それほどないです。ま、気づいていないだけかも知れないね(笑) 

―では最後に、先生のモットーを教えて下さい。

「よく学び、よく遊ぶ」。勉強することはすごく大事。別に研究者にならなくても、サラリーマンとかであっても、何をやるにしても、やっぱり、自分の与えられた仕事や課題に熱心に取り組むのは、大事だと思うんです。ただ、やり過ぎるのも……、つまり、一つのことに没頭し過ぎて、周りを忘れてしまうのは、あまり良くないですね。

法学部だと、ガリ勉君タイプの人が多くて、特に、司法試験とかを目指しているような人とかは、勉強一筋になりがちなんです。それはそれで成功する場合もあるけれど、人間としておかしくなるケースもある。だから、良き法曹になるためにも、人間としてアンテナを常にしっかり張って、人と交流できることがすごく大切です。そうじゃないといい弁護士にもなれないと思います。

そういう意味では、勉強以外の交流や遊びの機会をたくさん設けて、そこで人間性を磨いて、皆で切磋琢磨してもらうということも重要です。だから、勉強オンリーとか、あるいは逆に、勉学を放置して遊びオンリーとかではなくて、バランスよく充実した学生生活を送って欲しい、っていう趣旨なんです。

―今日は、お忙しい中、どうもありがとうございました。

インタビューアから一言

今年度からオステン先生の研究会に所属してはいるものの、じっくりと個人的にお話をお伺いできたのは、今回が初めてでした。容姿端麗なため、男子学生はもちろん、女子学生からも大変人気の高い先生ですが、今回のインタビューを通じて、その魅力を肌で感じ取ることができました。ゼミでの活動がこれから本格的に始まりますが、先生のモットーを見習いながら、オンとオフの切り替えを上手にこなし、国際刑事法の世界にどっぷりと浸かりたいと思います。これからもどうぞ宜しくお願いします! 
interviewer_s_49_profile.jpg 野田陽一。1986年生まれ。東京都出身。生後間もなくサンパウロへ渡り、幼稚園から小学校5年まで、再び東京で過ごす。その後、バルセロナへ渡り、2年間を日本人学校で過ごすが、ある日突然、同市内のBenjamin Franklin International Schoolへの転校を希望し、中学・高校を同校で過ごす。迷った挙句、日本の大学への進学を決意し、慶應義塾大学法学部法律学科に入学。現在第3学年に在籍。オステン研究会に所属。