活動報告 vol.14 佐古田継太~第2編~

早稲田大学政治経済学部の佐古田継太さんからの活動報告です。彼は、政治サークルに所属し、中東における人間の安全保障について研究中だそうです。今回、初の実地調査を行われたそうで、その調査報告の第2編として、「エルサレム編」をお届けします。第3編もご期待ください。第1編の「テルアビブ編」もよろしく。

佐古田継太さん。1986年、埼玉県春日部市生まれ。小学3年生の夏まで名古屋で過ごす。その後、香港に5年、台北に5年、計10年間を海外で過ごす。台北アメリカン・スクールを卒業後、帰国。現在、早稲田大学政治経済学部国際政治経済学科3年。バディ・ネットワークPUNKdに参加。また、政治サークルにも所属。中東における人間の安全保障について研究中。

活動報告

聖なる土地・エルサレム

エルサレムは、イスラエルとパレスチナの双方が領有を主張する土地だ。イスラエル・パレスチナ問題の主要な論点の1つに、エルサレムの帰属問題がある。パレスチナに明確な境界線がないことが、イスラエル・パレスチナ問題を複雑化させていることは前回も触れたが、エルサレムの帰属問題はこの典型的な例だ。エルサレムは、1967年以降、6日間戦争を機にイスラエルに実効支配されてきた。エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム、世界3大宗教にとっての聖なる土地であることはあまりにも有名だが、その歴史はあまり知られていない。

太古から破壊と創造が繰り返されてきたこの地では、ヒクソス時代、ペルシャ時代、ヘレニズム時代、ハスモン時代、ローマ時代、ビザンチン時代、ムスリム時代、十字軍時代、マムルーク時代、オスマン時代、イギリス統治時代、イスラエル時代と、さまざまな支配者が入れ替わり立ち代り歴史を刻んできた。また、今日のイスラーム主義運動にとって、最も重要な地の1つでもある。エルサレムはムスリムにとって、サウジアラビアにあるメッカ、メディナと並んで、世界で3番目の聖なる街だからだ。

エランさんに教わったとおり、テルアビブからエルサレムへバスで移動した。聖なる土地へのアクセスは、思いのほか安価で簡単だった。バスを降りると、どんよりとした雲が広がる空も手伝ってか、聖なる土地の空気が僕の肩に重くのしかかってくる。不安と期待が入り混じった複雑な気持ちを抑えながら、秘かに呟いた。「とうとう、やってきた」。

静かに語りかけてくる旧市街地

エルサレムの中央バス停から旧市街地まで、タクシーで数十分。旧市街地とは、エルサレムの歴史的に重要な建造物の多くが集中している「エルサレムの旧市街とその城壁郡」の略称だ。約1km2という小さなこの旧市街地は、ユネスコにより世界遺産に登録されている。ウィキ先生によれば、「周辺情勢の不安定さから保護が必要な物件である一方、エルサレムの帰属問題などのデリケートな問題をはらんでいることから、変則的な申請が認められた珍しい物件」だそうだ。世界遺産に登録されていると同時に、危機遺産にも登録されている。古い城壁に覆われた旧市街地は、ムスリム地区、キリスト教徒地区、ユダヤ教徒地区、アルメニア人地区と、4つの地区に分けられている。

僕が最初に向かったのは、ムスリム地区だ。まず、寝るところを確保しなければならない。「旧市街地のムスリム地区に安い宿がある」と言うタクシー運転手の提案を採用した。ムスリム地区は4つの地区の中で最も物価が安い。これら4つの地区は、同じ城壁に囲まれているとはとても思えないくらい、それぞれ独特な雰囲気を醸し出している。物価が比較的安く、混沌としており、生活感溢れるムスリム地区。対照的に、物価が比較的高く、おしゃれな広場やカフェが散見されるキリスト教徒地区。物価は比較的高いが、生活感溢れるユダヤ教徒地区。店は少なく、地味で整ったアルメニア人地区。1つの壁の中に4つの異なる文化が蠢いているという印象だ。

残念ながら、タクシー運転手が推薦した宿は満室だった。だが、その直ぐ隣にAl-Arabと看板に書かれた宿を発見した。旧市街地の歴史がことごとく刻まれたような、古めかしい建物のこのホテルは、ムスリム地区のちょうど真ん中に位置しており、交通の便が良い。また、場所が良いことから、屋上からの眺めが素晴らしい。値段は1泊600円。所々壁が剥がれた薄汚い部屋に案内されて、荷物を降ろす。一息つこうとした矢先に、僕と同い年くらいの体格の良い男性が、毛布を持っていきなり部屋に入ってきた。毛布ならもうあるのに……と思う僕を尻目に、彼は穴の開いた壁に毛布を押し込みだした。こうしないと夜が寒すぎるとのことだった。

朝、街のあちこちに設置されたスピーカーから流れてくる、大音量のお祈りで眼を覚ます。好奇心から屋上に這い上がってみると、日の出と共に、旧市街地がゆっくりと起き上がってくるような感じがした。お湯がなかなかでないシャワーで体を洗い、出かける支度をする。常にテレビの前でお茶を飲んでいる、アラ・ファトのようなバンダナをした可愛いおじいさんに、朝の挨拶をする。暫くして、宿の外に出て、朝食を採る。ピタ・ブレッドを用いたフムスとケバブのサンドイッチをほおばり、アラブ・コーヒーを啜る。アラブ・コーヒーは、僕たちがスター・バックスで飲むような通常のコーヒーとは違い、独特の香りと味を有している。これは、カルモダンという香辛料が入っているためだ。好き嫌いがはっきりと分かれるシロモノなので、お土産にするにはリスクの高い商品である。

旧市街地を歩くと、街が静かに語りかけてくる。僕の十倍以上は年を取っているであろうこの街の建造物たちは、観光名所であるないに関わらず、壮観だ。何かを語ることは、他の何かを語らないことだ。だからこそ、歴史を語る者は、語られることのない歴史を抑圧しないように、細心の注意を払う必要がある。そのためにも、自省的契機を維持し続けることが大事だ。静かに語りかける年寄りの建造物たちは、僕にそのことを教えてくれた。

ダリット・レゲフさんとの出逢い

エルサレム在住で、歴史家&考古学者として活動されているダリット・レゲフさんの家を訪ねた。先のエランさん同様、ダリットさんともホスピタリティー・クラブ(http://www.hospitalityclub.org/)を通じて知り合った。旧市街地を出てタクシーで数分。エルサレム郊外に位置するダリットさんの家は、西洋風のおしゃれな一軒家だった。ダリットさんの家を訪ねたのが夜だったので、夕食をご馳走していただくことに。パスタやラザニアなど、イタリア料理中心の夕食は、どれもダリットさんの手作りで、大変美味だった。ダリットさん、その夫、娘、お母さんの4人と夕食を共にしながら、お互いの趣味から世界情勢に至るまで、非常に多くのことについて語り合った。

議論がイスラエル・パレスチナ問題に触れた途端、それまで温厚だったダリットさんの口調が、急に変わりだした。「イスラエルにおいて、人口の2割を占めるアラブ系住民の待遇の改善が、イスラエル国家の長期的安定に繋がる」と主張する僕に対して、嫌悪感を覚えたようだった。「イスラエル国家はユダヤ人のためのもの」というのが、彼女の主張だった。双方の国家観には根本的な差異があった。
国家を、住民の福利厚生に貢献する政治団体として捉えていた僕。国家を、理念を達成する政治団体として捉えていたダリットさん。今日、世界各地で似たような議論が巻き起こっているのは周知の通りだ。さらに、議論は多岐にわたり、イスラエル・パレスチナ問題の主要な論点が明らかになっていった。以下にそれを簡潔に示す:

―イスラエル・パレスチナ問題の主要な論点―

1. エルサレムの帰属に関する問題
2. パレスチナ難民に関する問題
3. イスラエルにおけるアラブ系住民の待遇に関する問題
4. パレスチナにおけるユダヤ人入植地に関する問題
5. ユダヤ人とパレスチナ人の安全保障に関する問題
6. イスラエルとパレスチナの境界線の問題
7. 水を始めとする資源配分に関する問題

議論が一段落した後、あのAl-Arabがある旧市街地まで、ダリットさんに車で送って頂くことになった。おいしい食事と熱い議論を共にしたダリットさん一家には、ぜひ東京に来て頂きたいと思う。僕が受けたようなサーヴィスと同等のサーヴィスを提供できるかどうか不安だが、この恩は返したい。

岩のドームと中東和平

岩のドームとは、エルサレム旧市街地の中でも一際目立つ建造物だ。金のドームとも呼ばれるこの岩のドームは、銀のドームと呼ばれるアル=アクサー・モスクと並んで、旧市街地の外観を形づくっている。岩のドームは、世界3大宗教にとって非常に重要な場所だ。なぜなら、岩のドームは、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム、それぞれにとって重要な「創造の石」“foundation stone”を祭っているからだ。
イスラームにとって、創造の石は、イスラームの教祖ムハンマドが天馬に乗って昇天した場所とされている。また、ユダヤ教とキリスト教にとって、創造の石は、アブラハムが自らの息子イサクを神に捧げようとした場所とされている。特に、ユダヤ教においては、創造の石から世界が創られたという教えがある。

岩のドームの中に入って創造の石を見ようとしたが、警備員に止められてしまった。理由を聞くと、宗教宗派対立が激化している中東地域への配慮からだと言う。中東地域における宗教宗派対立の激化と、訪問者が創造の石を見学することには、一体どういう関係があるのかと首を傾げたくなってしまうが、彼らなりの配慮なのだろう。“Then, when will this place open? ”という問いに対して、“When the peace comes!”という答えが返ってきた。  

活動報告 vol.14 佐古田継太~第1編~「テルアビブ編」
http://www.rtnproject.com/2008/05/_vol14_1.html