海外生活体験者・社会人インタビューvol.34

interviewee_s_81_profile.jpg Ann D. Butler (アン・D・バトラー)さん。カナダのオンタリオ州のWellandで生まれる。日本にはもう30年以上も住んでいる。日本語はとても堪能で、発音もきれい。日本に来る前は世界各国を色々訪れていて、様々な文化とも交流が深い。現在、慶応義塾大学でネイティブまたは帰国生に英語を教えている一方、高千穂大学でも英語を教えている。

―日本文化にはもう慣れましたか?

ええ。今ではもうすっかり日本に慣れました。私個人としては、日本はとても好きですよ。

―やはり、最初はカルチャーショックとかありました?

カルチャーショックに関しては、アフリカのほかに、アジアのほとんどの国々、例えば、インドや東南アジアに行って、色々な文化に触れてきましたから、日本の文化は特に抵抗もなく受け入れることが出来ました。

―食べ物とかどうです?

そうねぇ、おせちはあまり好きではないけど、他の日本食は大好きです。私自身ベジタリアンなので、ヘルシーな日本料理はとても合っています。日本食は健康面、そして、栄養バランスの面でも大変優れているので、家でも基本的には日本食を作るように心がけています。新鮮な魚が手に入るので、ベジタリアンだとは言っても、たまにはお魚を食べるようにしています。

―日本語が大変流暢でいらっしゃいますよね。勉強していく上で一番苦労したことはなんですか?

アジアでは、日本に来たのが最後で、その後はずーっとここにすんでいます。日本語は、こっちに来てから今までずっと勉強しているせいか、今では近所の日本人と話していても、日本語特有の難しい言い回しも理解できるし、自分の言いたいこと、思っていることを、相手に率直に伝えることができるようになりました。

語学を習得することはなんでも大変です。確かに、丁寧語とか尊敬語の使い分けは難しいと思うし、私自身いまだにあまり理解できていない部分があるけれど、日本に30年住んで来てみて、特に日本語だけ難しいと感じたことはないですね。

英語と日本語とでは、文字がアルファベットとひらがな、カタカナ、漢字と異なり、単語が全く違いますが、日本語も英語と同様、文法が当然存在するし、それを忠実に型として守りつつ、あとは努力と熱意をもって学習に励むことができれば、日本語の習得は容易にできると思います。

多くの外国人移住者に言えることですが、日本語の苦手意識は、その例えようのない“わからなさ”や、来る前に持っていた日本語=難しいという先入観によって、最初の壁を突破できないことが多いように思います。

これは海外移住でも同じことだと思います。最初のカルチャーショックをいかに乗り切るか。その地の文化、土地柄といったものに対して、どう順応していくのか。それが最初の壁であり、それをいかにブレイクスルーするのか。

語学でも同様ですよね。最初に直面するさっぱり意味がわからない日本語を、上手に調理し、吸収していこうとする姿勢を持つことが、苦手意識を克服する上で重要なことだと思います。

語学なんて、住んでいるところが違えば、話されている言語も違うのは当たり前ですから、母国語以外はわからないと、はなから諦めるのではなく、自分の知らない言葉なのだとまず認識し、その上で受け入れて行こうとする心構えがなりより大事です。

異文化交流においては、他者を受け入れ、他者と同じ目線でものを見る。これは鉄則です。

―ハイ。わかりました。肝に銘じておきます。

―それでは、次の質問に移りたいと思います。イギリスと日本の授業について、どのような点に違いがありますか?

英語の授業しか受け持ったことがないから、あえて英語の授業に限って言うならば、一体感の差ではないかと思います。

イギリスの学生は、もっとも、教師と生徒はフランクに会話を交わして、タテの意識よりは、友達に近いヨコの意識のほうが強いから、授業でも活発に意見が交わされ、授業後でも自然と生徒が分からないことを聞きに来ることが多い。

それ対して、日本の場合は、学生は学生、教授は教授っていう地位があって、そのせいか、タテの意識が強いから、教授は一方的に授業を進め、生徒はそれを受動的に享受し、質問することがあっても、ためらいがちなところがあると思います。

教授としては、学生に教えることが仕事であるし、学生の成長が見て取れることが何よりの生き甲斐ですから、もっともっと積極的に参加して欲しいと思うことがあります。だから、私の授業では、生徒が積極的に意見を言える機会を与えるように工夫しているし、個別の質問に対しては、次の授業で取り上げることで、クラス全員で共有するようにしています。そうでしょ?(笑)

―はい。おっしゃる通りです(笑) 基本的にわからないところは大体共通しているので、先生にはいつも助けられています。

―では、お聞きしますが、生徒と教授の壁。それはやはり文化的な背景によるものなのでしょうか?

うーん、それは確かにないとは言い切れないと思います。

イギリスの大学にだって、教授→学生の一方通行授業はもちろんあるから、授業を有意義なものにするか否かは、教える者のモチベーションにかかっている側面はあると思います。ただ、語学は少人数なうえ、講義を黙って聞くというよりは、どちらかというと参加型の授業だから、それに関しては、イギリスのほうは日本と違って一体感があるのは確かです。

日本の目上の方は敬うという姿勢は素晴らしいと思うし、学生としてわきまえる謙虚さもいいと思うけれど、それが全てにおいてそういうシチュエーションではないはずだから、教室という教わる・教えるという環境では、もっとオープンになってもいいと思います。文化だからしょうがないと言ってしまえばそれまでだけど、となりと意見を交換したり、ディベートの時間を設けたりとか、改善する余地はあると思います。

―なるほど。授業の風通しを良くすることは学生の学習意欲の向上にもつながりそうですね。

―それでは、次の質問に移りたいと思います。先ほどまでは、授業についていろいろお話を聞かせていただきましたが、では、日本の学生について、良いと思ったこと、または改善していくべきと思うところはありますか?

日本では英語は第二外国語としてほとんどの生徒が勉強しているせいか、発音の上手い下手は置いておいて、読み書きに関してかなりの素養があるのはとても良いと思います。今まで色々と世界を周り、多様な人々に英語を教えてきたけれど、日本の学生はとても勤勉で真面目で、とても教えがいがあります。

これは別に過大評価をしているわけではなくて、本当の気持ち。静かで、おとなしそうな学生でも、指名して発言権を与えれば、ちゃんとした自分なりの意見を持っていて、なおかつ、内容の深いことを言ってくる学生も中にはいます。

ただ、あえてひとつ生徒に苦言を呈するならば、もう少しコツコツとやるように努力してほしいです。これは、日本人の学生だけに言えることではないけれど、タイム・マネージメントは、ビジネスマンに関わらず、学生も必要だと思います。やるべきことを後回しにするのではなく、もっときっちりと時間を区切って進めた方が、能率も格段に上がるはずです。

せっかく良い意見を持っているのに、それをLast minuteになって仕上げるものだから、Essayはしばしば内容がうまく煮詰まっていない、クオリティの低いものになってしまいます。“ garbage”を作るのではなく、時間管理をしっかりして、何事も少しずつやるように心掛けて欲しいと思っています。

―今日はありがとうございました。

―最後に、日本で英語を学ぶ生徒に対してなにか一言いただけますか?

“Don’t worry about making mistakes. Everybody makes mistakes.”
“Try to discuss with your teacher or friends interactively.”

インタビューアから一言

今年からバトラー先生の英語を履修しているのですが、こんなに長く会話をしたのは初めてでした。授業に時折話す日本語はすごく流暢でしたが、まさか日本に30年以上も住んでいたなんて思いもしませんでした。日本の文化についてとても知識が豊富で、様々な文化についても非常に博識であり、話している様子はカナダ人であることを全く感じさせない、まさに国際人という感じでした。これから半年またお世話になりますが、よろしくお願い致します。
interviewer_s_47_profile.jpg 倉門和遠。1986年東京生まれ。高校1年まで日本で過ごすが、その後、父の転勤により、スイスのジュネーブでおよそ4年間過ごす。その後、大学受験のため日本へ帰国。慶應義塾大学に進学し、法学部法律学科2年に在学中。