海外生活体験者・社会人インタビューvol.35〜第2編〜

interviewee_s_82_profile.jpg クリストフ・クリタ(Christope Kourita)さん。日本のLycee Franco-Japonais (フランス人学校)で高校を終了後、フランスの大学で医学を専攻するが、卒業後は日本で漫画家になることを決意する。以後、フランスと日本を行き来して漫画や絵コンテを描き、両国で活躍している。代表作に『おだいじに』や『冒険野郎伝説「アヴァンチュリエ」』がある。

―実際、日本で始めてみて、どうでしたか?

フランスで2作描いて、続きがあったのですが、脚本家兼出版者の人はちょっと特殊で、みんなと喧嘩して、それで話がポシャってしまったんです。それで日本に来ることにしました。そのときはコネもなく、全くの賭けで、できるかできないか、一か八かの状態でした。

いろいろ漫画を描いて、持ち込みをして、ある程度反応があったのが、秋田書店と講談社だったんです。それで何話か持ち込みました。僕としては、とりあえず2年は頑張ろうと思っていたんですが、幸いなことに、半年くらいで「週間モーニング」に『おだいじに』を連載することになったんです。江戸時代を舞台にしたストーリーです。それと同時に、ヤング・チャンピオンでもショート・ストーリーを連載するようになりました。91年のことで、それは結局3年間続きました。

―とりあえず「2年間がんばる」という目的は達成したというわけですね。

そうですね。とりあえず、日本でデビューは果たしました。ただ、デビューさえすれば、もう何でもかんでもうまく行くかというと、それは違いますよね。出すのは第一関門ですが、第二関門はそれが売れなきゃならないことです。単行本は一冊出せたのですが、それは思うように売れなくて、連載が2年ほど続いてから、結局打ち切りになってしまいました。だから、次は、日本人には描けないような、フランスを舞台にした話をと思ったんです。

―『おだいじに』には、あまり「フランス人としての自分」は盛り込んでいなかったのですか?

そうですね。やはり、物語の舞台は日本なので、話自体は日本人なら誰でも書けると思います。でも、僕の絵はわりと日本人の漫画と違うと思うんですよね。そういうタッチが僕の個性だと思っています。日本人から見たらおそらく外国の漫画に見えるんでしょうが、フランス人から見たら日本の漫画なんですよ。でも、それは僕のアイデンティティであって、それは絵にも出てるんですよね。もしかしたら、ストーリー・テリングの面でも、そういうものは出ているのかもしれませんが、それは自分には分かりません。自分の顔が、日本人寄りか外人寄りかがわからないのと同じですね。ひとに「きみ、外人っぽいね」とか、「日本人っぽいね」って言われて、「ああ、そうなんだ」と思うのと同じです。だから、日本人とは違うところがあるのかもしれません。

―自分のアイデンティティを仕事に活かせているという印象を受けますが、そこはどう思われますか?

でも、それは意図的にやっていることではないんです。自分に合った描き方、自分に合ったストーリーを描いているだけなんですね。

―日本で漫画家をされた後に、フランスに行こうと思われたのは何故ですか?

日本を離れて、フランスを舞台にした漫画を、フランス人のシナリオライターと協力して描きたかったし、また、フランスに住んでみたかったんですよね。フランスに戻って、いろんなシナリオライターに話を持ちかけました。

でも、実はそのときが一番大変だったんです。いろんな人に会って、最初に向こうが結構乗り気だったのに、まったく何も書いてこなかったり、書いてきてもらっても、ちょっと違ってて、そこで自分の意見を言うと、向こうはプライドが高いからか、「じゃ自分で書いて来いよ」って言われたり……。これはうまい、下手、という問題じゃなくて、テイストの問題でした。やはり、基準というのは誰にでもあるんですよ。僕は日本人の面白い、面白くない、という基準を持っているので、フランス人が面白いと思っているものを詰まらないと思うことがよくあるんです。それで、フランスで少し行き詰りました。

そこで、ディズニーで仕事をしていた友人に誘われて、アニメの仕事を始めたんです。当時は、フランスでは「漫画」はあまりブームじゃなくて、「漫画を描くのとアニメを作るのは違うからねぇ」と言われながら、絵コンテのテストをやったら、「きみは日本でアニメをやっていたのか?」なんて言われて、「いや、やってないですよ」って答えたら、「え? うそでしょ? 採用だ!」ってなったわけですよ(笑)

それからは、わりと簡単でした。絵コンテを描けば、「すごい、すばらしい」なんて言われて、「ちょっと大袈裟じゃない?」とか思いながら続けていました。10年くらいコンテやりましたね。そのころは、漫画は自分の企画を進めていましたが、フランスであまり売り込みたいとは思っていませんでした。僕が描きたかったのは、日本の形式の漫画でしたから、フランスの46ページの形式には合わなかったんですよ。

―クリタさんの見る日本の漫画とフランスの漫画の違いはなんですか?

まず、日本人の面白いというのは、フランス人が読んでも面白いんですよ。でも、フランス人が面白いと思うものを、日本人が見ても面白いとは必ずしも思わないですね。今では、日本の漫画はフランスで結構流行っていますので、200ページの単行本を向こうで出すのは可能かもしれませんが、僕が91年にフランスに行ったころは早すぎました。10年くらい(笑)

でも、日本にも日本で悪いところはあります。例えば、今の日本の漫画を見ていると、似たり寄ったりのものが多いですね。漫画があまり売れなくなったせいか、みんなあまりリスクを取りたがらないという感じはしますね。

例えば、以前『レミー』という企画がスーパージャンプで掲載されることになったのですが、「絵のほうは別の日本の漫画家さんにやらせてください」って言われました。それを聞いて、やっぱり日本のタッチじゃないと日本の大衆は読まないのかな、と思いましたね。代わりの漫画家さんが見つからなくて、結局企画はポシャリましたが……。

今、日本はオタク漫画が主流になってきたので、あまりリスクを負おうとはせず、前ほどバラエティはないというか、エネルギーに欠けてるように感じます。そして、そういうふうに保守的になってくると、絵のタッチが違う漫画が受け入れられにくくなる可能性はあるでしょうね。例えば、今描いているフランスの妖怪物の漫画は、明らかに日本の漫画とはタッチが違うんですよ。ストーリーも、絵本漫画だから、ナレーションが多いんです。そういう意味では、特殊だし、フランスのBDに近いのかも知れません。第3編はこちらから>>

Christope Kourita Website :http://www.kourita.com/

第1編はこちらから>>
伊藤ニコラ。1986年大阪府生まれ。生後直ぐ東京へ移り、3歳まで日本に滞在。その後、イギリスで小学校2年生まで過ごし、日本へ帰国。小学校5年生の終わりに、今度はフランスへ。中・高をフランスの現地校で過ごし、卒業後1年間、美術大学のプレパ(予備校)へ。その後、日本へ戻り、現在早稲田大学人間科学部2年に在学中。