海外生活体験者・社会人インタビューvol.35〜第3編〜

interviewee_s_82_profile.jpg クリストフ・クリタ(Christope Kourita)さん。日本のLycee Franco-Japonais (フランス人学校)で高校を終了後、フランスの大学で医学を専攻するが、卒業後は日本で漫画家になることを決意する。以後、フランスと日本を行き来して漫画や絵コンテを描き、両国で活躍している。代表作に『おだいじに』や『冒険野郎伝説「アヴァンチュリエ」』がある。

―僕は、フランス人学校の話を実際に通っている弟などに聞くと、かなりフランス文化色が強いような印象を受けるのですが、そこはどう思われますか?

フランス人学校とは言っても、そこがフランス文化とは言えないと思います。僕なんかは、高校3年まで日本で暮らしてきて、フランスに行ったことがなかったから、卒業後にフランスに初めて行って、考え方も違っていたし、やっぱり自分が全然フランス人と違うんだと、いうことがよく分かりましたね。フレンチスクールに行っているからって、フランス人の考え方を必ずしも持つわけではないですよ。

逆に、フランスに住んだ経験があって、両親の仕事の都合で日本に来た人たちは、すごくフランス人っぽいんですけどね。日本で育った人とは全然違いました。それは授業なんかを通してもよく分かりました。日本で育った人はディスカッションがあまりうまくないですよね。フランス語のレベル以前に、何かについて語ること、意見を出すことが全くできないんです。フランスに住んでいると、自分の意見を主張して、文句を言って、「違うだろ、こうだろ、何故こうじゃないんだ?」って、よくディスカッションをする機会がありますが、日本人は「あ、そうですか」って、他の意見を受け入れるほうが多いですよね。だから、哲学で、「じゃあディスカッションしなさい」って言われても、なにも言うことがなかったんです。

―そのフランス育ちのフランス人たちをみて、どう思いましたか?

いや、特にどうとも思いませんでしたね。学校では「日本人寄り組み」とか「フランス人寄り組み」のグループができていて、まあ、完全に分かれているわけではないですが、僕が気が合った人は、どちらかというと、「日本人寄り組み」や日本で育ったハーフでしたし。

普段から自分が日本人とは違うということは意識していましたし、フランス人的なところがないわけではないですが、それが自分のアイデンティティであって、不利な部分もあれば、有利な部分もある。でも、最初にフランスに行って、フランスで生活したときはキツかったですね。だまされてしまったり、文句が言えなかったりしたけど、そういうのはだんだん言えるようになって、自分が強くなれたことはよかったと思います。

―大学時代にフランスに行って、一番びっくりしたことはなんですか?

第一印象は、飛行場に着いてからなんですけど、思ったことは、「おお! 外人ばっかじゃん!」(笑)ってことなんですよね。日本では、例えば、ほうきで道を掃いている外人は見たことなかったから、「こういう職業でも外人がやるんだ!」というふうに(笑)、新鮮であると同時にショックでした。

次に受けた印象は「なんて人たちは優しくないんだ?!」。お店に入って文句を言われたときはすごいショックでしたね。「文句あるならほか行きなよ」って言われたり、ちょっと日本じゃ考えられなかったから……。そのときは「オレはお客だぜ」って思っただけですけど、今なら文句言ってますけどね。“Attendez, je paye hein? J’ai le droit!(おい、オレは金を払ってんだから権利はあるぞ!)”って(笑)

フランス人化してくるとそうなるんです。でも、あのときは日本人的に「あ、すみません、買わせていただきます」って済ませていました。そういうツライ目に最初の一年は会いましたね。

―では、逆に日本に戻ってきて、びっくりしたことはなんですか?

海外に出て、日本に戻ってくると、日本を新鮮な目で見られるんです。だから、いままで当たり前に思っていたことが、すごくプラスに思えることが多かった。「なんて日本はすばらしい国なんだ」って。どこに行っても「いらっしゃいませ!」だし、ニコニコとしているし、全てがスムーズに進むし、消費者天国だし……。

でも少し経ってくると、日本の悪さというのもだんだん見えてくる。「なぜ日本人は機械的でナチュラルじゃないんだ?」って。トークが形式ばっていたり、マニュアル化されていたりとか……。お店に入って、「ナポリタン・スパゲッティひとつお願いします」って頼むと、「はい、では、もう一度確認させていただきます」って言われて、僕は「確認しなくていいよ、一つなんだから」って思うんですね。なんかロボットみたいですよね。そして、少しジョークを言ってみたものなら、向こうは困ってしまうし。フランスならそこでまた跳ね返ってきますよね。ジョークを言い合ってすごくフレンドリーになれる。日本ではなれない。でも、そういうところがあっても、全体的に見て日本は住みやすい国ですよ。

―今日はありがとうございました。最後に、クリタさんがいま一番大切にしていることを教えていただけますか?

違うものを見たり経験したりするのはいいことだと思います。だから、僕はわりと旅をするのが好きだし、他の言語を覚えるのも好きです。

旅は本当は年に一回は行きたいですね。フランスにいたときは、わりとできてたんですけど、日本にいると、オレは仕事をしなきゃならない、企画を売り込まなきゃならないんだ、という使命感みたいなものがあって、あんまりそんな余裕が持てません。フランスにいたときは、ブラジル行ったり、中国行ったり、インド行ったりしてましたよ。

ゆとりある生き方は、今後もしていきたいですね。日本の漫画家は、連載が始まるとすごく大変になるんですけれども、それは僕にはできないかな。一年に一ヶ月はブラブラしてますね。日本人から見れば、たるんでるとか言われるかもしれないけど、そこは違うと思います。そこは日本人の感覚とは違うんですね。仕事は仕事でちゃんとして、遊びというけれども、それも勉強ですからね。漫画のネタにもなるし。そういう経験をすることは、とてもいいことだと思うから、そういう時間はちゃんと真剣に取るべきですね。人生は漫画だけではないということですから。

そして、人生楽しむことです。楽しむために人生はあるわけですよね? 簡単なことのようですけど、それを見失っている人は多いと思います。これをすれば自分は幸せだというものが、見えていない人が多いのかもしれませんね。そして、もしかしたら、僕はそれが見えているから幸せなのかもしれません。

―今は幸せですか?

うん。いいと思いますよ。絵を描く仕事をして、好きな時に仕事をして、好きなときに休めて、自分の家で仕事をしてという意味では、いろんな人に羨ましがられるような職業だと思います。全てがばら色ではないですが、悪くはないと思います。

もちろん、よくないところは探せばいっぱいあるのだけれど、ポジティブに見るべきですよね。いいところがたくさんあるのに、悪いところばかり見て自分を不幸せにするのは、自分のポリシーではありません。もっとよくしていこうと努力をして、「自分はもっとこうしたい」というものに向かって全力を尽くしたい。一番大事なのは、目標があるならそれに向かって一所懸命やることだと思います。それで十分だと思っています。

でも、目標を見つけるのも簡単なことではないと思います。自分は何がやりたいのか、それはすごく悩ましいもので、創作と一緒です。ストーリーを考えているときに、なかなか見つからなくて、すごく不安なんですけど、いろいろ考えていると、そのいろいろからポワンと浮かぶことがあるんです。でも、ドタバタしないと、そのポワンは浮かんできません。人生に不安はあるのは当然ですが、そこでドタバタして、ポワンと浮かんでくるのを摑む。

そして、後悔はしてはいけないですね。「後悔しないで生きろ!」 なんだか教訓くさいですね(笑) でも、フランスで医学部を出たのに、日本に来て漫画家としてチャレンジをしたのは、それをやらないと自分が後悔すると思ったからです。人生には賭けの時期はあると思います。それは誰でも怖いですけれど、それで引き下がってはいけないと思います。とにかくやってみる。僕がこんなこと言っても、結果論で綺麗事に聞こえるかもしれませんけど、きみも頑張ってくださいね。僕も頑張らなくちゃならないけれどね(笑)

Christope Kourita Website :http://www.kourita.com/

インタビューアから一言

創作を通して表現するものは、全て自身からにじみ出てくるものであり、クリストフさんの作品を拝見すると、本当にご自身の中でフランスと日本のバランスがよく取れた方なのだということが伝わり、それが僕にはとても羨ましく思えます。クリストフさんとは、フランス滞在中に一度、アニメ会社の通訳として働いていていたときに、友人の紹介でお会いしました。当時、僕は本気でアニメや漫画の業界で仕事をしてみたいと思っていたので、フランスと日本、二つの文化を股にかけて活躍されているクリストフさんの生き方は、本当に理想的だと思いました。初めてお会いしてから3年ほどたちますが、その気持ちは今でも変わりません。クリストフさんと会い、お話をする度に、がんばらねばという気持ちになります。

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伊藤ニコラ。1986年大阪府生まれ。生後直ぐ東京へ移り、3歳まで日本に滞在。その後、イギリスで小学校2年生まで過ごし、日本へ帰国。小学校5年生の終わりに、今度はフランスへ。中・高をフランスの現地校で過ごし、卒業後1年間、美術大学のプレパ(予備校)へ。その後、日本へ戻り、現在早稲田大学人間科学部2年に在学中。