海外生活体験者・学生インタビューvol.49〜後編〜

薬師寺翔太さん。1988年東京都生まれ。3歳から9歳まで英国ケント州に滞在した後、東京の小・中学校 を経て、米国テキサス州ヒューストンで高校3年間を送る。Memorial High School を卒業後、東京大学文科Ⅰ類に進学。現在、東京大学法学部3年に在学。

2年前に出会った薬師寺君は、今では、梅田望夫氏の著書『シリコンバレーから将棋を観る』を文系オープンソース型プロジェクトとして英訳する、「『みんなで丸ごと英訳』プロジェクト」のリーダーとして有名人に。彼の海外生活から英訳プロジェクトの話までお話してもらいました。5月15日、初めて下車した駒場東大前。駅を出るとすぐに門を広げる東大教養学部で、不思議な気持ちを胸に、ドキドキしながらインタビューを始めました。

文系プラットフォームの未来
 
―それでは、次に何を期待していますか?
 
まずは、ちゃんと訳を修正してくれるひとが、大量に現れること。ひとりひとりが、少しずつ編集するようになると良い。今の段階だと、一人一人の分担が多いけ ど、もっと認知度が上がって参加者が増えれば、同時にたくさんの人が翻訳に関われるようになり、オープンソースのキーワードでもある「とっかかりやすい塊に分割」が実現すると思う。それと、将棋好きの外国人を絡ませたい。そこにどうやって入り込むかが今の課題です。
 
―翻訳にゴールはないような気がするのですが、このプロジェクトの果ては?
 
そう、そこ! 翻訳にはゴールがない! 今の段階では、翻訳も、このプロジェクトも、どこがゴールかは分からない。いまは実験として、この日本発のプロジェクトが、どこまで行くのか見たいという気持ちが大きい。このプロジェクトによって、何かが見えてきたり、新しいプロジェクトが派生してきたりすれば、そこにはチャンスがあると思う。
 
―「群集の叡智」を使った、文系プラットフォームは?
 
俺らには思いつかないんだよね。ただ、新たに誰かが何かをはじめようと思ったときに、お金が掛からない方がもちろんいいし、参加するにあたって敷居が低くないと意味がない。この英訳プロジェクトが盛り上がり、ある程度形になれば、次に何かが起こるかも。

今回は、将棋という分野の本を英訳したけど、おれらがつくった道筋を見て、新しいことを始める人が出てくるとうれしい。むしろ、今はそれを待っている段階。ここから、他の本で同じようなプロジェクトが生まれたら面白いと思う。
 
オープンソースの面白さとして、そこに問題があると、かならず解決したくなる人間が出てくるということ。自分のためにはならないにもかかわらず、他人のために何かしたくなる。そんな、人間の本質的な動きが、インターネットの普及によって、より視覚的に捉えることができるようになっている。今後の文系プラットフォームには、期待できることが多いと思うよ。
 
「梅田さんは、炭鉱のカナリヤ」
 
―僕も非常に興味があったのですが、語学力が。。。
 
入ったら、なんだかんだで、みんな英語力はそこまでなかったよ(笑) だから、英語力を気にせずに、沢山の人に関わってもらいたいと思ってる。それと、念願の梅田さんにも会うことができました(笑)
 
―おめでとうございます!!
 
この間、東京で会ったよ。翻訳グループの中の、来られる人たちで顔合わせをして、今後についての意見交換とかをしたんだ。
 
―梅田さんに会ってどうでしたか?
 
一言で言えば、「普通のおじさん」だった(笑) 誰もやったことないことに対して、リスクを冒して取り組み、それを切り拓いたときの快感に病みつきになっているのかという感じがした。炭鉱のカナリヤのように、自らリスクを背負って、真っ先に新しい世界に足を踏み入れる姿には、感銘を受けたよ。
 
今回のプロジェクトで、個人的にも感じたことだけど、新しい試みをするというのは、とても面白いことだと気付いた。自分の活動によって、他人からの意見を直に受けることができ、その活動を批評されることは大事だと思う。
 
たとえば、梅田さんのような著名人に会えたり、批評を受けることができたりするのも、インターネットを通じて、このプロジェクトを公表したことが大きな要因になっている。インターネットは、良い意味で人間の関係をフラットにするね。
 
「日本のウェブを明るくしたい」
 
―今で言うオープンソースは、プログラムが主流だと思います。プログラマーとして参加している人にとっては、自分がやった活動を、ユーザーの批評によって認知でき、それが、モチベーションの維持につながると思います。ただ、翻訳の場合は、翻訳した結果を認知しにくいのでは?
 
それは、おれもそう思う。そこが文型オープンソースの難しいとこだよね。今回は、梅田さんを好きな人が集まったから実現できたけど、関係ない周りの人を巻き込むのが難しい。さっきも言ったように、翻訳というのは限界がなく、翻訳者のモチベーションを維持するために、結果を示すのも難しい。ただ、これは序章であって、これから確実に何かは起こるはず。今の段階で、このプロジェクトが目指すのは、日本語圏のウェブの新たな可能性なんだよ。
 
日本の場合、ウェブの負の面が注目されがちだけど、今回のように、使い方によっては面白く、ポジティブな面がある。そういう意味では、日本語圏のウェブの切り口としては良かったかなと思う。あと、単純に、今回は将棋の本ということもあって、海外の将棋ファンで、日本語の本を読みたい人たちにとっても、メリットのある活動だと思う。
 
―プロジェクトは注目されている?
 
この英訳プロジェクトに続き、フランス語訳のプロジェクトも立ち上がっている。また、脳科学者の茂木健一郎さんにも注目してもらい、ブログとか、講演会でも取り上げて頂きました。結構著名人の間でも、衝撃的なプロジェクトだったはず (笑)
 
限界と希望
 
―今回のプロジェクトをやってみて、気付いたこと、見えたものはありますか?
 
このプロジェクトをやっていて感じたのは、日本語ウェブはダメだと言われてるけど、まだ、ウェブの正の側面に多くの人が気付いてないというのが、正しい指摘だとおもう。潜在的には、ウェブの面白さを体感しようとしてる人はいるけど、まだ、自ら積極的に良くしようと動いている人は、それほどいないのかなと思う。
 
今回は、 本という商品の内容を翻訳し、公開して良いという想定外な提示があったからこそ、このプロジェクトが生まれた。この事例が成功して、翻訳されないだろうと 思われている本も、他人が著者に連絡をとって、今回のように翻訳プロジェクトとして立ち上がるかもしれない。このように前例を作ると、他の人もやりやすくなるとは思うから、前例がないことに対して、無理だと諦めるのではく、実際に行動することにより、ウェブの未来も切り開けると感じた。
 
―最後に一言お願いします。
 
今回のプロジェクトは、本当に実験で、ここから何か生まれることに期待している。他の人が、このプロジェクトに感化されて、他の分野に応用してくれないと意味がないし、プロジェクトを見て面白いと思った人がいたら、率先してそれを活かしてほしいと思う。思い立ったらすぐに行動することが、すごく大事だと思う。それと、あらゆる可能性に懸け、楽観的でいる精神も大事。それは今回やってて、すごく思ったことだね。今後は、カナリヤのように、リスクを冒してまで、新しいことにチャレンジしたいと思う。
 
“Yoshiharu Habu and Modern Shogi” 「みんなで丸ごと英訳」プロジェクト:
http://modernshogi.pbworks.com/
ブログ「日本にもシリコンバレーを!!!」:
http://d.hatena.ne.jp/shotayakushiji/
帰国子女大学入試・合格体験記vol.16 薬師寺翔太:
http://www.rtnproject.com/2009/02/vol16_2.html
 
インタビューアから一言
 
今回は、忙しいなかインタビューを受けてくれてありがとう。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。日本のウェブ界を震撼させたプロジェクトのリーダーに、こうしてインタビューできて幸せです。個人的には、文系のオープンソースの発展には期待してます。また、薬師寺君主体のプロジェクトも、今後どのような発展を遂げるのか、目が離せません。ちょくちょくチェックします!

前編はこちらから>>
interviewer_s_33_3profile.jpg 古屋悠。1987年東京都生まれ。生後間もなくドイツへ移住。ドイツのデュッセルドルフに5年間滞在し、帰国後鎌倉へ。中学3年からドイツのフランクフルトへ渡り、Frankfurt International School卒業後まで滞在。現在は早稲田大学人間科学部3年に在学中。RTNプロジェクトでは早稲田大学支部、WEB担当代表。SNSへはこちらから。