活動報告 「世界の学校から」vol.8 石綿整

石綿整さん。1983年東京都生まれ。中学一年まで日本で過ごし、その夏に渡米。カリフォルニア州マウンテンビューに約5年間滞在し、高校3年の夏に帰国。早稲田大学理工学部に入学し、そのまま大学院に進学。早稲田大学理工学研究科ナノ理工学専攻を卒業し、現在スタンフォード大学Electrical Engineering Dept.にてPhD一年生として在籍。大学の研究ではダイヤモンドを用いた次世代ソーラーセルの開発に係わっている。

活動報告

世界を変えてきたスタンフォード大学

ベンチャー企業という言葉が日本で流行ってから、もう大分経つと思いますが、ベンチャー企業というモデルの素晴らしさを世界中に見せ続けてくれる場所、それがスタンフォード大学です。そもそも、ベンチャー企業のビジネスモデルは、昔スタンフォードで教授であったFrederick Termanが提唱したものであり、そのアイディアは、トランジスターを作りノーベル賞を受賞したWilliam Schockleyらにより実践され、彼と共に研究していた何人かは自分達で独自の企業を立ち上げ、そこからintelなど、世界の超一流企業も生まれているわけです。

全世界の大学ランキングで2位、分野別にみればlaw schoolは全米3位、education schoolとbusiness schoolが2位のほか、computer scienceやelectrical engineering、mechanical engineering,、chemical engineering,、physicsなど、理系はほぼ全分野が全米1位か2位にランクされています。卒業生が実際に起業した会社を挙げれば、Google、Yahoo!、Sun Microsystems、Hewlett-Packard、 Cisco Systems、Nike、NVIDIA、SGI、VMware、 MIPS Technologies等、まさにベンチャー企業として始まり、現在世界の超一流企業として君臨する企業ばかりです。

Schockleyらによる半導体産業の立ち上げをもとにシリコンバレーと呼ばれるようになったこの地は、Google、Yahoo!の誕生によりメディアバレーと呼ばれるようになり、現在は次世代エネルギーデバイスを生み出すエネルギーバレーとして変化すべく、ソーラーセルの開発に全米トップのエネルギーが注がれています。
http://gcep.stanford.edu/index.html

そんなスタンフォードの敷地周辺、及び、大学の聖堂の目前から一本道でつながるダウンタウンは、ベンチャー企業に投資するベンチャー・キャピタルのオフィスで埋め尽くされています。平日のダウンタウンでは、昼からワインを飲んでいるようなアメリカの企業投資家もたくさん目にします。実際、授業にもベンチャー企業を起こして成功した卒業生が、自分の会社の扱う製品の仕組みなどについて、講義をすることもしょっちゅうです。

この大学に来て一番感じることは、「デキル人」の意味の違いです。日本では、与えられたことを誰よりも良くこなせる人を「デキル人」と呼びますが、ここでは「デキル人」とは自分で物事を起こし、世界にその価値を示す人を「デキル人」と呼びます。ここでは、技術をもとに産業を起こして、世界を少しでも変えたいという人が多いのです。卒業生もあまり大企業を好まず、自分の本当にやりたいことを求め、大学で教授になるか、少人数のベンチャー企業に就職します。自分のやりたいことで世界に価値を生み出すことだけを考えているわけです。

スタンフォード大学の学生気質

パーティーや食事に行っても、誰もが自分が何をしたいか、熱く議論を広げます。僕が学生としてここで一番尊重されていることは、物事を捉えて何か結果を得ようとする姿勢と、今自分がやっていることになによりも必死であり、必ず結果を出そうとしているモチベーションの高さです。それは、運動にしろ勉強にしろ、なんにでも当てはまります、今の自分の状態を理解し、自分に何が出来るのかを必死で問う。例えば、マラソンのトレーニングにしても、どういった組み合わせの筋トレと有酸素運動をすればもっと速くなれるのか? 実際のレースは何ヵ月後で、今の自分には何が足りて何が足りないのか? まず第一に、みな自分を理解していて、何をしたいかが明確であり、そして、それを実際に実行する力を持っている。それがスタンフォードの学生の基本である気がします。

それは簡単のように聞こえて、実際心の芯からそれが出来ている人は、世の中に少ない気がします。でも、ここはそういった人たちで溢れ返っています。‘Stanford duck syndrome’という言葉があるように、人の見えるところでは、みな涼しい顔をしたアヒルのように振る舞い、その裏では、水面下で足を必死に搔いて必死に働いているのです。大学の成績も、他の全てを忘れるように取り組んで、はじめて他の人を超えることが可能です。自分が少し出来ると思うようなことは、ここでは他のひと全てが出来るのです。足を必死に搔かないアヒルは、あっという間に群れから脱落してしまいます。

アメリカでもトップの大学ですから、お互いプライドが高く、気を張り合って、なかなか気前の良い人はいないかと思っていたのですが……、とんでもない! (笑) どこへ行っても、皆とりあえず仲良くなろうと話しかけて来ます。アイディアでもなんでも、もっとみんなでシェアして理解をより深めて行こうと、な んでも取り入れる姿勢が非常に強いのです。

政治から映画、音楽、物理まで、毎日どこへ行っても、どんな場所でも、議論が展開されます。図書館に限らず、それぞれの建物には、会議室が大小たくさんあり、いつでも夜になると、学生が何人かで集まって、ホワイトボードに何かを書き、必死で理解を深めようと努力している姿があちこちで見られます。例えば、来年度からライス元国防長官も教授としていらっしゃるのですが、9・11事件に関係する捕虜に対し体罰を与えたことに関して質問するために、非常にたくさんの数の学生がカフェテリアに集まったりもしました。http://www.youtube.com/watch?v=ijEED_iviTA

僕も半導体の本を初めて日本の大学で読んだとき、そもそも本にはこう書いてあるが、その本当の理由はこれではないか?とか、本に書いてあることだけでなく、もっとそのアイディアを広げてみたらどうなるか?とか、それを誰かとディスカッションしたいと思い、しょっちゅう教授と議論したりしていましたが、まさにここにはそういった議論をすることが大好きな学生がたくさんいるのです。

簡単な例で言えば、暖かいモノと冷たいモノがあれば、必ず暖かいモノは高いところへ行き、冷たいモノは低い所へいきますよね? だから、暖房は床に近い方が良いし、冷房は高いところにあるほうが良い。また、暖かいコーヒーに冷たいミルクをいれると良く混ざりますが、冷たいコーヒーに暖かいミルクでは良く混ざらないわけです。しかし、これはそもそもなぜなのか、考えたことがありますでしょうか? 実はこれは重力の力なのです。地球上どこでも、温度差が地球の中心に対してモノを動かしている。真理を問う議論はこういったところから生まれます。

日本の講義では、最後の「何か質問はありますか?」というのは、ある意味礼儀上、話の終わりを告げる挨拶のようですが、こちらの授業では、講義はただの前哨戦です。質問が始まってからが、本当の授業の始まりなのです。教授も学生も一緒になって理解を追い求める。僕もきちんと筋が通るまで考えないと気がすまないタイプなので、授業が終わってから30分以上、教授と議論したこともあります。その結果、「君のように考えたことはなかったが、それは面白い考え方だ」と言われたこともあります。そうやって積極的にアプローチすことで、教授も自分に目をおいてくれます。そうして、世界的に注目される教授に気に入られるのは、自分としても非常に嬉しくやりがいを感じる瞬間です。

学業以外の活動

ほとんど全ての学生、約90%の学生がキャンパス内の寮で生活をしています。寮と言っても、大学院生の寮は、写真にあるようなかなり条件の良い場所です。ビーチバレーコートが目の前にあり、週末にはバレーボールをしたり、外でバーベキューをしたりします。週末のバーベキューは新しい友達を作る非常に良いきっかけです。学部が異なると、特に文系と理系は同じクラスを取ることがないので、つながりを広める良い機会なのです。また、月一で大学主催のパーティーもあります。そのときは、学生証を見せれば無料でビールがいくらでも飲めて、きちんとDJなどを呼んで音楽も提供されます。学生バンドのコンサートも二ヵ月に一回はあり、その際も無料で飲み物が提供されます。

その他、寮の近所ごとに課外活動のメールが回り、海沿いを自転車で走りに行ったり、有名なnapa valleyのワイナリーに行ったり、海にカヌーで漕ぎ出すようなイベントから海岸をクリーンアップに行くランティアなど、様々な形で近所での交流を深め るイベントがあります。これらのイベントは、どれも大抵無料で、昼か夜の食事がつきます。

マラソンやロードバイクなどの長距離運動も人気があり、マラソンに参加したことのある人やマラソン、バイククラブに所属する人も多くいます。僕もジョギングは大好きなので、‘adidas transport’というアディダスに支援されているプロチームに入れるよう、毎日空いている時間をなんとか作り、トレーニングに励んでいます。他の人もそれぞれの種目において目標を持っています。きちんとした目標をこのように立てるところにも、先ほど指摘した向上心の強さが現れていると思います。また、週末に、ロッククライミングやハイキングのために国立公園などに行く人も非常に多く、outdoor好きの多いことから、ジムの中にはロッククライミング練習用の大きな壁があります。

ジムは大学内に三ヵ所あるので、寮からすぐ近くて非常に便利です。全て無料で、朝6時から深夜の1時まで開いているので、学生はいつでも行くことが出来ます。朝6時から結構混んでいるのには、本当にやる気のある人が多いのだなと驚かされます。また、‘Intramurals’という学内のリーグもあり、サッカーやバスケットボール、ゴルフ、フリスビーなど、多種目において学生の参加が可能です。スポーツに関しては、アメリカンフットボールのようなメジャーのスポーツではそれほど強くはないのですが、テニス、野球、バスケットボール、陸上、ウォーターポロ、ゴルフ等が非常に強く、オリンピックメダリストの数も多いです。また、タイガーウッズも卒業生であり、現在はMichelle Wieも学生として在学し、キャンパスで見かけることがあります。

最後に ~結びにかえて~

以上、大雑把ではありますが、僕の感じるスタンフォードの魅力に関して説明しました。敷地面積や学生の数、学費などのstatsはwikipediaでもなんでも調べればすぐに分かるはずなので、その辺は省かせてもらいました。スタンフォードは本当に日本人の学生が少ないです。僕が知っている限り、engineeringには8人しかいません。日本からも、もっと果てしない挑戦を求めて、モチベーションの高い、意志の強い学生が来るようになれば、世界的に活躍する日本人も増えることだろうと思います。

僕自身も、これから先PhDを取得するまでは、まだまだ至難の連続の道のりですが、最高の教育水準、教授、学生、設備に囲まれた、人生で最高の環境を無駄にしないよう、日々頑張りたいと思います。スタンフォードに関して、どんな小さなことでも質問があるようでしたら、SNSのこちらまで、メールをどんどん送って頂いて大丈夫です。皆さんの夢を少しでも叶えるため、出来る限りサポートさせていただきたいと思います。

Stanford University :
http://www.stanford.edu/