海外生活体験者・社会人インタビューvol.43〜第2編〜

interviewee_s_109_profile.jpg 杉山文野さん。1981年新宿生まれ。歌舞伎町育ち。日本女子大学付属の幼・小・中・高を経て、早稲田大学教育学部に進学。卒業後、同学大学院教育学研究科に進み、「セクシュアルマイノリティと教育」を中心に研究した後、07年3月卒業。その研究内容と性同一性障害である自身のエピソードを織り交ぜた『ダブルハッピネス』を講談社より出版。重たいテーマをストレートかつポップに語ったことが話題を呼び、発売1週間で1万部の重版がかかるヒットとなった。大学院で勉強する傍ら、毎週行われる子供たちのフェンシング教室や歌舞伎町の街プロジェクトにも参加。2004年度フェンシング日本代表。「歌舞伎町よくしよう委員会」スタッフ。

著書『ダブルハッピネス』について

―『ダブルハッピネス』を出したきっかけは何ですか?

当事者と社会の距離を狭めたいと考えたとき、「今、自分には何ができるだろう」と考えたんですよ。それが本を出すことだったんです。医学的なとか、専門的な本ではなく、かと言って「辛い苦しいを乗り越えて、今新宿二丁目で頑張ってます!」という「結局夜じゃん!」みたいな本でもなくて、どこにでもいるようなあんちゃんがそうなんですよ、っていう、身近さを出したかった。夜の華やかな世界やテレビの中のエンターテイメントな世界だけじゃなく、あなたのすぐ隣にいるんですよって。そこに、当事者と社会、双方の距離を縮めるキッカケがあるんじゃないかと思ったんです。

―本のフィードバックは、どれくらいのものでしたか?

大きかったですね。百とか二百とかそんなもんじゃなくて、数でいうと何千っていう単位で来ました。「いっぱいいるだろうな」とは思ってたけど、実際、そんなにいたんだと、自分が一番ビックリしました(笑)

―フィードバックはやっぱり、当事者からが多かったですか?

当事者もそうですけど、当事者に何かしら関係ある人も多かったです。恋人だとか、家族だとか。例えば、ある学校では保健室に僕の本を置いてくれているらしくて、それを読んだFTMの中学生の子からのフィードバックでは、「本で勇気づけられました」「今、学校に学ランで通えるように交渉中」みたいなコメントをもらったりしました。当事者と社会の間を縮めることが目的だったので、とりあえず一歩目の目的は達成された感じですね。

―実名で出されていますが、迷いはなかったですか?

迷わなかったですね。っていうのは、「やるならやる。やらないならやらない。」って決めていたので。「ゼロか120か」みたいな感じに捉えていたので、「顔は出せない」とか「名前が出せない」とかいうと、表に出る意味があんまりないと思ってました。もっとリアルな存在として行かないと、と思ったんですね。

―本の出版の目的について、詳しく教えてください。

当事者だけが読むような本にはなってほしくなかったんですよ。こういった分野に興味がある人、また当事者が本を手に取るのは、ある意味では当たり前、そうではなくて、「そんなの俺には関係ないよ」って言っている人にこそ、手に取ってもらえるような一冊にしようと。最初から難しい本だと、やっぱり敷居が高くて、みな読んでくれないじゃないですか。

もうひとつは、カミングアウトの手助けですね。ただでさえ、自分のことをうまく相手に伝えるのは大変なこと。特に仲の良い友達とか、家族だからこそ、カミングアウトって本当に難しいんですよ。だから、この一冊がそのきっかけになれたらいいなと思ってました。この本を友達に渡したら、理解してもらえたっていうケースも多かったので、まさにその役割を担えて嬉しいかぎりです。

―フィードバックの中には、相談とかも多かったんじゃないですか?

ありましたねー、沢山(笑)

それはそれで嬉しかったんですけど、でも一方で困りました。「助けてください、助けてください」っていう相談があまりにも多くて。自分としては、中途半端に相談に乗りたくはなかった。一回でも相談に乗ってもらえると、すがってしまうケースが多く、ちゃんと最後まで責任がもてないのなら、乗るべきではないと思ってました。

―実際のところ、相談には乗っていますか?

いえ、乗っていません。というのも、例えば。1対1なら、こっちも何かできるかもしれませんが、その数がすごく多いと、絶対全部には答えられない。こちらも、出来ることなら全部助けてあげたいけど、最終的には、「それは無理だ」「そんな無責任な返信は逆に失礼だ」って気づいたんですよね。

それでも何とかしたいと思ったとき、自分に何が出来るかといったら、やっぱりブログを書き続けながら、まず、文野自身が「人生楽しんでいるぞー!」「性同一性障害なんて関係ないぜー!」という姿勢を見せることだということに辿り着きました。

―それでも、どうしても相談したい場合は、どうすれば?

「それでも、どうしても相談したい」という人は、「グリーンバードというプロジェクトで、月2回歌舞伎町で活動しているから、そこに来て」とは言っています。だから、あそこだけは唯一、自分の所在を明かしているんですよ。実際、本持って来てくれた人とか、結構いるんですよ。

―実際会いに来てくれた人たちのことで、困ったこととかありましたか?

ちょっとありましたね。あの本って語り口調な訳じゃないですか。だから、みなあれを読むと、よくも悪くもまるで10年来の友かのように接してくれるんですね(笑) それこそセックスの話まで書いちゃって、こちらとしては隠すモノなんて、何もないですから。

まぁ、そういうこともあって、この本を読んで、向こうは距離をぐっと縮めて来てくれるんですけど、こちらとしては一応「初めまして」なわけだし、「そっちは俺のセックス知ってるかも知れないけど、こっちはお前の名前もわかんねぇよ!」みたいな感じなことも多かったですね(笑) とはいえ、人見知りしない方なので、特には気になりませんけど。入り口が本からでも、今はいい仲間がいっぱいいますよ。

随分周りにも振り回されました。

―手術はどうされるんですか?

あ、よく勘違いされるんですけど、「手術しない」とは言ってはいないんですよ。ただ、手術する前に、「自分というものをもっと噛み砕かないといけないなぁ」というのは感じてました。

前から、「手術したい」って気持ちはあったんですけど、本を出したあとは、「手術をしないで生きて道を切り開くのが、今の自分の役割なのかなぁ」とも考えたりして。とはいえ、苦しいものは苦しいわけで、やっぱり手術はしたいとずっと思ってました。

―やっぱり、重要なことだから、迷いますよね。

そうですね。手術に関しては、随分周りにも振り回されました。

例えば、「手術をしなくても楽しく生きている文野くんを見て、勇気をもらいました」ってメールをもらえば、やっぱり嬉しいんですよ。ただ、プレッシャーでもあります。「自分は手術をしてはいけないのかな」なんて思ったりして。

その一方で、「お前、手術しないでもいいなんて、性同一性障害者としてニセモノだ!」なんてメールも来たりする。

それこそ、「手術をしようと思った矢先に、親が文野のことを見つけて、『文野くんは手術しないで頑張っているんだから、アンタも頑張りなさい』って言われた」ってメールが来たりすると、どうすればいいんだろうと思ったりもしました。

―うわぁ・・・色んなフィードバックがあるんですね。

本当ですね。もちろん「自殺を思いとどまりました」っていうメールをもらったときは嬉しいですけど、無力感を味わうことのほうが多いです。

例えば、「僕もFTMだと思います。ただこの年になっても誰にも言えず、今まで来ちゃいました。今では2児の母をやっています。」ってメールが来たんですよ。「こんな田舎に住んでいると、そんなこともオープンにできる環境じゃないんです」「一生そのことを誰にも言わずに、墓まで持っていくつもりだったんだけど、文野くんにだけは言います。」って内容だったんですけど、そのときは気持ちがドーンと沈みました。

―手術を考えると、緊張しますか?

いえ、決めてしまうとそうでもないですね。「やるんだ!」って決めたあとは特に。周りの意見に振り回されて、「やっぱり、やりたい」ってことも言えなくなっちゃったときもあったんですけど、「周りに振り回されていたら、いつまでたっても無理だ!」って考えて。

で、最終的に、「自分はどうしたいんだ?」と思ったら、「やっぱりやりたい!」ってことだったので。誰かのために何かをしようとかいう前に、まず自分が気持ちよく生きていないと、駄目だと思ったんです。結局、セックスって、その人の生活全てに、本当に嫌になるほど、影響しますからね。第3編はこちら

第1編はこちらから>>
    
    
藤原彩加。1988年生まれ。5歳から9歳までフランス・パリで過ごし、帰国後、東京の小学校に通う。小学校6年からインドネシア・ジャカルタ。中学1年の時に日本に一時帰国、中学2年でインドネシアに戻るが、その直後にカナダに渡り、オタワにある私立高校へ編入。卒業後、慶應義塾大学法学部政治学科に進学し、現在3年に在籍。RTNプロジェクト広報代表&慶應義塾大学支部代表として活躍。