海外生活体験者・社会人インタビューvol.52〜後編〜

interviewee_s_138_profile.jpg 石丸由紀さん。1974年愛媛生まれ。小学校から12年間アメリカに在住。帰国後、東京大学文科Ⅰ類に入学。法学部に進学後、通訳学校に通っているうちに、仕事が舞い込み、卒業前に独学で通訳を始める。現在は、フリーランスの通訳者・翻訳者として、映画・舞台・ファッション・IT・金融業界など、多方面で活躍中。旅行、映画、音楽、舞台が好きで、最近始めた趣味は乗馬。

日本人俳優がハリウッドに進出するきっかけ

―渡辺謙さんの通訳は、どのように始められたのですか?

きっかけは、新しいテーマパークの開設段階からの通訳です。それを何年かやっている中で、あるプロデューサーさんと知り合いました。そのテーマパークがオープンして一年半くらいたったときに、突然その方から連絡があって、「渡辺謙さん知ってる? 彼が通訳を探している。」という話になったんですね。紹介されて撮ったのが『ラスト・サムライ』なんです。そこからずっと、謙さんのお仕事をやらせていただいているんですよ。

―渡辺謙さんの仕事で印象に残っているのは?

『ラスト・サムライ』は、日本人が俳優としてハリウッド映画に出られるようになった、ひとつのきっかけなんですね。今は結構出てますが、あれがなかったら、多分他の仕事もなかったと思いますから、やはり、その場に入れたということ自体が、通訳冥利に尽きると思います。

それと、それまでの映画の中に描かれている日本は、「は?」っていうおかしなところが多かったと思いません?(苦笑) 『ラスト・サムライ』も「は?」っていうところは結構ありますが、それをもっといい見せ方をしたいと思いました。誤解が解けるような日本を見せられるように、私にもできることがあるんじゃないか。そう思うきっかけになりました。

あと、謙さん自身が本当に素晴らしい方なので、謙さんのお役に立ちたいですね。

流れる言葉はすーっと入っていく

―通訳以外のお仕事はされているんですか?

映画の方だと、脚本の翻訳をしています。字幕は字幕で別物で、尺があります。早口の人であれ、遅い人であれ、読める字数は限られているんですね。それだけの短い尺にどう収めていくのか。結局、そこで何を落としていくのか。何を略していくのかということになります。

私がやっているのはそのような仕事ではなく、映画製作前に、台本の内容を役者さんに伝えるための訳なんです。『硫黄島』が一番分かりやすい例ですが、『硫黄島』の台本って全部英語なんです。でも、台詞は日本語ですよね。そこで訳す必要があります。

―脚本を訳していく上で、いちばん大切にされていることは?

「流れるような言葉」です。どんなに難しいことを言っていても、分かりやすく言っていると、流れていくんですね。これは本でもそうですが、難解な本、読みにくい本は、やはり分らないという気がします。すーっと、ちゃんと素直に入っていくものというのは、分かりやすくて、一番残ると思うんです。

―言葉選びで気をつけていることは?

同じ言葉を、あまり何回も使わないこと。同じ言葉でないと、どうしてもダメというときも、もちろんあります。でも、同じことを言っていても、印象が違うはずなんですよね。特に、日本語って語彙が多いですから。多いのであれば、使い分けていくこともできるはず。そういうところから、まず、違う言葉がないかどうかを探して行きます。

”He said”と言っているだけだとしても、「こう言った」というのと、「こうのたまった」というのでは違います。どちらを選ぶかは、その後に来る言葉で決めていくわけですが、英語で全部”said”になっていたとしても、全部「言った」でいいのかというと、そうではないところがあるはずなんです。まずは、違う言葉がないのか、違う表現の方が適切なんじゃないかということを考えます。

「私」にするのか、「わらわ」にするのか

―仕事とプライベートは、どう区別をつけてらっしゃるんですか?

翻訳は家でやるものなので、家が仕事場なんですよ。だから、仕事を持ち込むという概念がありません。通訳も、舞台は外ですが、結局は、その仕事に入る前の資料読みとかリサーチとかは、家でしかやれないんですね。

翻訳については、ほとんど区別がつかないですね。テクニカル文章であれば、本当に訳していれば終わるのですが、台詞の場合、もっといい言い方があるんじゃないかと考え込んでしまうんです。もっとパンチのきく言い方があるんじゃないかとか、この役者さんが言うんだったら、もっとこういう風に言った方がいいんじゃないかとか。

初見の段階では、この人は「僕」なのか「俺」なのか、どちらだろう。時代ものだったら、この時代だったら、「私」にした方がいいのか、戦国時代より前だったら、「わらわ」にするのか、悩むわけです。それって、もう尽きようがないから、いつも考えてしまいます(笑) でも、そういう風に考えてばかりだと、精神的に参ってしまい、よいアイディアが浮かばないので、無理やり外に出てみたりとかしますね。

来たら来ただけ「ありがとう」「頑張ります」

―フリーランスで大変だと思うことは?

まず、保証が何もないということ。仕事が来る保証すらないということです。始めた頃は、本当に仕事がなかった(苦笑) いつ来るか分らないので、一つ一つを、来たら来ただけ「ありがとうございます」「頑張ります」と。それは、会社勤めだとないですよね。

それから、毎日ちがう場所で働くことになるので、スケジュール管理が大変なときもあります。特に、私は方向音痴なので、大変です(笑) 新しい場所に出かけなければならないときは、その日が来るたびにどうしようって悩みます。電車が止まってた日には、泣きそうになります。遅れた理由は、分かってはもらえますが、あまり言い訳にはならない。会社務めだと電車が止まったと言ったら、仕方ないなってことになると思うんです。ただ、通訳だけ来ないっていうことになると……問題ありますよね。

その代り、休みはいつでも取れますね。その分、収入がなくなるっていうだけです(笑)

対象にどこまで寄り添えるが重要

―日本に住んでいて通訳を目指す人のために、英語の効果的な勉強法があれば教えてください。

日本で勉強していれば、ボキャブラリーもあるし、文法も知っているし、すごく基礎知識は高いんです。何が欠けているかと言えば、聞くチャンスだと思うので、ひたすら聞くことでしょう。ケーブルテレビで英語ばっかり流しているチャンネルも、今はたくさんあると思うので、あれをひたすら流す。それは、別にニュースではなくても、ドラマが好きならドラマでも映画でも、日本語字幕じゃなくて、英語字幕にして英語を聞く。そうすると、聞き取れなかった部分の英文が出るので、それで大体分かるはずです。あと、歌が好きなら歌詞を見ながら聞くのもいいですね。

それに慣れたら、通訳の勉強でもやるんですが、シャドーイングをします。シャドーイングというのは、言っていることを3語後くらいにリピートすることです。ずーっとオウム返しに。それだけ聞くと楽そうですが、実はすごく大変で、それをやると勉強になると思います。

―一般的に、通訳・翻訳者に向いている人というのは、どういう人でしょうか?

語学が好きじゃないといけないというのは、もちろんありますが、好奇心旺盛とか、物怖じしないとか、人が好きとか人懐こいとか、そういうのがキーワードになってくると思います。

―帰国生に通訳・翻訳者に憧れている人は多いと思いますが、通訳・翻訳者を目指す方に、なにかアドバイスをお願いします。

できると思ったら大間違い! でも、頑張れ! 辛口で言うとそうなんです(笑) 実際に今仕事をしている通訳・翻訳で、帰国子女は半分以下。残りは、海外で勉強もしたことがないという人も結構います。だから、何が必要かというと、もちろん語学が好きじゃないとダメですが、対象にどこまで寄り添えるが重要だと思うんですよね。

憧れだけでやれるほど、憧れとプラス自分は語学ができるという思いだけでやれるほど、簡単ではない。ただ、語学がそもそももうあるわけですから、他の人よりも下駄は履かせてもらっているわけです。その分なりやすいとは思うので、あとはいろいろ頑張って行ってほしいと思います。

インタビューアから一言

お互いに人見知り同士ということで(笑)、初めは緊張していたのですが、話しているうちに、とても話しやすく素敵な方だと思いました。同時に、仕事に関する質問の受け答えが真摯で、圧倒されるものを感じました。渡辺謙さんの通訳を含め、多方面で活躍している実績を持ちながら、常に謙虚な姿勢でおられるところは、自分が社会に出たらこうありたいと、見習いたく思います。お忙しいなか、本当にありがとうございました!

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interviewer_s_59_profile.jpg 横山知子。1988年三重県生まれ。小学校・中学校をマレーシアの日本人学校、高校をマレーシアのインターナショナルスクールですごす。計14年間滞在し、The International School of Kuala Lumpurを卒業後、早稲田大学教育学部へ入学。現在2年に在学中。