活動報告 「世界の学校から」vol.17 伊藤ニコラ

カリフォルニア州立大学は、1857年、カリフォルニア師範学校としてサンノゼに設立(現在のサンノゼ州立大学)されました。最も新しいキャンパスは2002年に設立されたカリフォルニア州立大学チャンネル諸島校で、カリフォルニア州全土に23のキャンパスを持つ米国最大級の大学群です。今回は、留学中の早稲田大学人間科学部3年の伊藤ニコラさんに、その中からCalifornia Polytechnic State Universityをご紹介願います。

伊藤ニコラ。1986年大阪府生まれ。生後直ぐ東京へ移り、3歳まで日本に滞在。その後、イギリスで小学校2年生まで過ごし、日本へ帰国。小学校5年生の終わりに、今度はフランスへ。中・高をフランスの現地校で過ごし、卒業後1年間、美術大学のプレパ(予備校)へ。その後、日本へ戻り、現在早稲田大学人間科学部3年に在学中。

活動報告

私が現在留学している大学は、アメリカ合衆国カリフォルニア州立ポリテクニック大学(California Polytechnic State University)で、「カル・ポリ(Cal Poly)」と称することが多い。ロサンゼルスとサンフランシスコのちょうど中間地点に存在する、サン・ルイス・オビスポ(San Luis Obispo)という、どちらかというと小規模な町とほとんど融合しており、また、この町にとって、極めて重要な存在である。

09年9月13日に渡米し、まだ4ヵ月ほどしか経っていないが、経過報告という感じで、大学とサン・ルイス・オビスポの町の紹介をさせていただきたい。

キャンパス

カル・ポリのキャンパスは、一言でいえば、広大である。9月中旬にキャンパスを初めて歩き回ったときは、建物の位置関係がなかなか分からなくて、広いキャ ンパスを徒歩でさ迷っていたが、慣れるのに時間がかかった。キャンパスが山の上に建っているというのも、歩くにしろ自転車に乗るにしろ骨が折れる。

私は早稲田大学の学生だが、早稲田の本キャンパスの3倍以上はあると思う。大学の敷地はさらにずっと広く、ウィキペディアには39.17 km2と記してあるが、その大半は農業目的に使われている。小さな町と隣接し、西カリフォルニアの自然の中に位置するこのキャンパスは、規模の制限などあまりなく建てられたのがよく分かる。その証拠に、キャンパスのいたるところに芝生やくつろげるスペースが設けてあり、建物同士は適度に離れていて、開放感がある。

そこから来る難点といえば、上でも述べたように、キャンパス内の移動が大変だということだが、それは自転車を持っていれば解決できる。サン・ルイス・オビ スポは、アメリカでも珍しいとされるほど自転車利用者が多い町だと言われているが、おそらく、それが大学に通い、大学内を移動するのに、一番楽だからだろ う。もうひとつの理由は、車の駐車場が有料なので、みな節約のために自転車に乗っているのだ。

キャンパス内には、いくつもの売店や食堂などが散らばっているのも魅力である。その食堂だが、現在一部工事をしている。今キャンパス内では多くの工事がされているが、その多くは生徒の投票によって決められている。現在工事中のジム・センターもそうである。

大学

カル・ポリは、建築学部、工学部、農学部、そして商学部が、全国レベルで見ても、特に優れていると言われている。中でも、工学部の各学科、たとえば、電気 工学、コンピュータ・エンジニアリング、機械工学、アエロスペース・エンジニアリングなどは、どれも州立大学内1位か2位を占めている。結果として、外国 から来るほとんどの学生も、これらの学部・学科に所属する者が多い。

だが、だからといって、他の学部が提供するプログラムや授業、特に文系の授業のレベルが低いということは決してない。私は、この前終了した秋学期(9月から12月)は、主にジャーナリズム系と社会学・民俗学系の授業を取っていたが、十分に満足のいくボリュームだったといえる。それは、単に私が留学生で何もかも新鮮だったということだけではなく、話を聞いていると、現地の学生も口を揃えて言うことだ。秋学期の私の選択した授業が「アタリ」だったということもあるかもしれないが、冬学期(1月から3月まで)に取った授業にも期待している。

勉強のボリュームに少し触れたが、いくつかそれについても説明したい。授業は、取得単位が1単位から4単位のものまで様々であるが、取得単位数が多ければ多いほど、授業の要求度も高い。同じ授業が基本的に週に2度あるので、2日後までにテキストを60ページ読んで来い、ということはザラである。そのため、リズムは常に一定で、駆け足である。特に上述の4学部に属する学生は、プロジェクトに追われる毎日に苦悩しているようだ。文系は文系で、読み書きの課題が多く、ほっと一息つくのも大変である。大学内に張り巡られているある黄紙にはこう書いてある。“Work 25~35 hours a week (2 hours per unit)” 実は脅しではなかったりする。

サン・ルイス・オビスポの町

サン・ルイス・オビスポは極めて小さな町である。アメリカの基準で言えば‘Town(村)’である。確かに数えればそんなに建物もなく、広範囲に散らばっているので、‘City’とは呼びづらい。

しかし、だからといって何一つ欠けることはない。買い物は近所の大きなスーパー「Albertsons」で何でも手に入るし、中心街に行けば飲食店、 バー、映画館など、たまに羽を伸ばすには最適な場所が何件かある。映画好きである自分からしてみれば、単館映画館1軒を含め、全部で4軒の映画館があるの だから、不満はない。さすがはハリウッドの国アメリカで、どんなに小さな町にも、映画館だけは豊富にある。他に、自転車関連だろうと、音楽関連だろうと、 大体の店はそろっている。

しかし、それもサン・ルイス・オビスポが学生の町だからという理由の方が大きいだろう。サン・ルイス・オビスポは人口約42000人だが、カル・ポリは毎年20000人の生徒を迎え入れている。そのうち30パーセントの学生がキャンパスの寮に住むと考えれば、町の人口の約3分の1が学生だということになる。これは、逆に町の懸念することのひとつである。例えば、ハロウィンの日に学生が仮装し、お酒を飲むと、学生が町を乗っ取ったかのような状態となり、手に負えなくなるからである。そのため、ハロウィンの時期は、警察の取り締まりが厳しくなり、学生からしてみれば少々狭苦しくもある。

個人的に一つ難点があるとすれば、それはまた距離が関わってくる。キャンパスが町と隣接しているとは言え、やはり自転車で飛ばして10分はかかるし、先ほ ども述べたようにキャンパスは山の上に建っており、寮はその山の上のほうに位置する。言うまでもなく、風が強かったり、日が暮れたり、最近そうであるよう に多少冷えたりすると、面倒臭くなる距離である。自転車だとあまり買い物を持ち運べないのも問題点である。しかし、キャンパスで買い物をしようとすれば、 普通の値段の2倍もすることがあるので、友人の車に乗せてもらえない場合は、覚悟を決めて行くしかない。

学生寮

カル・ポリには学生寮が二ヵ所存在する。1つはCerro Vista Apartmentsという寮で、もう1つは私の住んでいるPoly Canyon Villageである。Poly Canyon Villageは2年前にできたらしく、まだピカピカな印象が残る。基本的に留学生が住むのは、このPoly Canyon Villageである。

Cerro Vista Apartmentsは、基本的にアパートがいくつか並ぶ感じではあるが、Poly Canyon Villageは「Village」なだけに、メインプラザにコーヒーショップ「Peet's Coffee」、ベーグル専門店「Einstein’s Bagels」、ジュース専門店「Jamba Juice」、そして雑貨屋「Village Market」を含んでいる。さらに、平日毎日営業している郵便局があるので、まさに小さな「村」を思わせる。が、残念ながら、上でも述べたように、ベーグル専門店やスーパーは相当に高いので、個人的にはあまり利用しない。コーヒーショップは普通の値段であり、よく寮の学生が勉強したり、一息ついたりする。時々学生バンドが演奏したりするが、ちょっとしたイベントである。

イベントといえば、Poly Canyon Villageは豊富である。ほとんど毎日何かしらのイベントがある。映画上映会、料理会、ゲーム・ナイト、アイスクリーム食べ放題、ライブ、etc。これらは、学生が暇になって、町にお酒を並みに行かないようにするための努力らしい。それらのイベントは、各寮のCA(Community Advisor)が運営している。CAは、イベント以外にも、夜回りなど色々な仕事を与えられる代わりに、生活費がタダになるのである。

その他考察

大学紹介なので、あまりネガティブなことは書きたくはない。だが、こうしてあえてカル・ポリ、強いて州の大学のいくつかの問題点に触れるのは、カル・ポリを紹介させていただく上で、無視できない点だと思うからである。

現在、カリフォルニア州全体が経済破綻寸前であり、カル・ポリもその影響を大きく受けている。学費は州立大学でありながら上がる一方で、最近大学は来年の学生数を減らすという苦策に出た。これには、直接的な経済的懸念以外にも、いろいろな懸念を生んでいる。

その中で、州によって提供される「安いはず」の教育費がどんどん上がり、所得の低い家庭の生徒が、以前までは受けられるはずだった教育を受けられなくなってしまうという恐れが、やはり一番問題視されているだろう。09年11月には、いくつかの大学で学生が大規模なデモを起こしたが、州の決断は揺らがなかった。

その上、予算節約の方法の1つとして、今年からは、「Furlogh(ファーロウ)Day」といって、毎学期授業時間を6つ削減するようにと、教師は州に命じられている。教師の給料を減らすことで節約をしようというのだ。だが、授業数が減り、生徒は質の低下した教育を受けることとなる。休みが増えて不満をこぼす生徒はあまりいないが、もともとそこまで給料の高くなかった教師にとっては、深刻な問題である。

その問題はさらにカル・ポリ独特の問題へと繋がる。キャンパス内の人種の多様性の小さいことである。カル・ポリは、どういうわけか白人学生が大多数を占める。そして、不思議なことに、誰もその理由を知るものはいないようだ。大雑把な統計でいうと、学部生の70パーセントが白人、10パーセントがアジア系、10パーセントがラテン系、そして残りが黒人、ネイティブ・アメリカン系、その他である。

しかし、なぜこの統計なのか? なぜ10年前からこの統計が変わらないのか? なぜ同じ工芸学校のCal Poly Pomonaは、ずっと人種的多様性のあるキャンパスなのか? 大学による無意識の組織的差別のためだろうか? あるいは、さらに大きなスケールの問題なのか?

この議論は、前学期受けたEthnic Studiesの授業で繰り返し行われたが、理由を突き止めることはできなかった。しかし、問題は、生徒の数を減らし、学費を上げてしまうと、さらに白人以外の生徒が少なくなってしまう恐れがあるということだ。人種差別意識、人種間の緊張がいまだ潜み、存在するこの州において、‘Race’はアメリカを知らない人間が思うよりも、ずっと大きな問題なのである。

こういった問題はすぐに解決することはないだろう。よって、今後カリフォルニアの大学、またはカル・ポリに通おうと思っている人は知っておくべきことだと思う。

まとめ

暗い現状の話をしたが、それらはあくまで隠れている部分であり、影響がないと言えばウソになるが、1年間の留学においては、そこまで考えなくてもいいこと だろう。実際、表面上では、カル・ポリは非常に暖かく迎え入れてくれ、キャンパスは広々と気持ちよく、授業も面白いので、不満はまるでない。サン・ルイ ス・オビスポは、都会の活気にはかけるが、その分ローカル色の強い、暖かい町であり、ルールが少々厳しいが、居心地はいい。これまでの留学は本当にすばら しい経験であり、あと2学期ここで勉強するのが本当に楽しみである。

California Polytechnic State University :
http://www.calpoly.edu/