海外生活体験者・社会人インタビューvol.95〜後編〜

interviewee_s_233_profile.jpg 土屋淳さん。81年に東京大学大学院工学部工業化学科博士課程を修了後、84年までシカゴ・アルゴンヌ国立研究所、ローレンス・バークレー国立研究所にて材料科学の研究に携わる。帰国後、三菱化学の研究所に中途入社し、89年から00年まで、アメリカにおける三菱化学のマーケティングビジネスに関わり、三菱化学が買収したアメリカの会社Verbatimのマネージメントにも携わる。00年に帰国後、三菱化学の記録材料事業部、経営企画部に所属し、02年に退社。その後4年間、アメリカの会社ローム&ハ―スの日本法人に入社し、07年からは独ヘレウス株式会社の日本法人に入社し、現在、日本法人・代表取締役社長を務める。

発信の仕方で負けている

―経営者として、今後の日本に対して感じていることは何かありますか?

今、東大でゲスト講師として講義をしています。その講義の中でよく言っていることがあるのですが、世界における競争が激しくなるなかで、日本人としての個人戦略が必要だなと感じています。世界の土俵で戦うには、発想と発言と発信が重要で、日本人は発想では負けていないと思いますが、発信の仕方では負けているのではないでしょうか。

欧米流の論理感覚がない。日本では、なんとなくふわふわっと話すだけで伝わってしまう文化がありますよね。しかし、欧米では、インド人からアメリカ人まで、様々な人種の方に物事を伝えるために、言葉の定義を明確にして、何を考えているかはっきり伝える必要があります。

例えば、「これは○○です。なぜなら、1、2、3」という形で伝える。論理感覚があれば、どの人種の人とでも会話が進み、議論が深くなっていきます。このような発信力を身につける必要があると思います。自分の発言を「受信」してもらうには、現地の人たちの論理感覚を身につけていかなければならないですしね。

国際会議で正しい英語を使い、発言できる。質問されてもすぐ答えられる。このような能力を身に付け、自己研鑚していく力が重要だと思います。そういう意味で、みなさんのような帰国子女は、若い頃からそういう能力を身につけているのではないでしょうか。

―そうですね。そうありたいと思います!

個人を強くしていく戦略が必要

現在、日本は外資企業の国内参入に対して抵抗していますが、これから日本企業が海外企業に所有されていくことが多くなると思います。国内でも外資と内資の区別がなくなるほど、外資が参入してくれると良いと思っているのですが、これから外国人と日本人との競争が激しくなります。企業と企業の競争ではなく、個人と個人の競争が激しくなると思います。それに対応するためにも、個人を強くしていく戦略が必要ですね。

会社という看板で勝負していくのではなく、腕一本で働ける能力を身に付け、世界で戦う人間になってほしいです。人間として、社会における付加価値をつけていく。格差社会や競争社会が良いか悪いかといった議論をしている場合ではなく、もうすでに社会的にそうなっています。中国人や韓国人など、世界中の人々が競争を挑んできます。個人能力を高めておけば、どのような環境になっても適応できる。

また、そういう腕一本で働けるスター選手が日本人でもっと出てきて、さらにその選手たちをマネージできるスター経営者も出てきても良いと思います。これから国際化が進んで、経営者の部下は日本人だけじゃなくなります。労働者の個性に応じてマネージしていく。今後、そういう人が求められていくと思います。

そういった能力を磨いていくために、外資で働くことも良いと思いますよ。現在、就職難が取り上げられていますが、就職できないのであれば、あまり大きい企業でもなくていいから、小さな外資系会社でも良いと思います。ベンチャーでも良いですね。ネームバリューにこだわる必要がない。自分が磨けるところで、自分で実力を付ける。そのための心構えと覚悟も必要です。

能力のある個人が社会を変える

―土屋さんは、なぜ外資で働こうと思ったのですか?

それは、腕一本で生きていくという野心というよりは、そういう道もあるんじゃないかなと思ったからですね。海外で経営してきたので、外資系企業では自分なりのバリューをさらに発揮できると思いました。研究者としては、他人と比べたときに、並みのレベルだと思いましたしね。転職をすることはリスキーですし、自分を変えるうえでも悩みますが、自分にとって必要だと思ったからです。

また、外資企業で日本初のビジネスを打ち立てたかったのもありますね。材料科学に関しては、日本は断トツで世界一位だと思っています。そういった状況で、我々の会社としては、日本にビジネスチャンスがあると思いました。それを自分で提案し、実現化する。これを外資でしてみたかった。非常に難しい事業ではありますが、実力や行動力、説得力を必要とされるビジネスを、グローバルな舞台で展開してみたかったのです。

このようなことを海外で積極的にやる人が日本で1万人ぐらい増えれば、日本の経済が良くなるのではないでしょうか。スーパー技術者や労働者を経営できる能力。それは政治における組織のマネージ能力なども含めて、このような個人の力が社会を変えると思います。スーパーな発想力がなくても、発信力があればマネージャーになれば良いと思います。

給料に対してセンシティビティを持つ

―世界で働く日本人として、求められる能力やセンスなどはありますか?

自分の給料に対してセンシティビティを持つことが重要だと思いますね。日本では、年収1億円を超えるマネージャーがあまりにも少ない。インフレ気味だとは思いますが、アメリカでの経営者は日本の3、4倍以上の給料をもらっています。これは、その分だけ社会的価値を与えるからもらえる。世界という舞台で自分の価値はどのくらいか、興味をもつべきだと思います。

やはり、社会人として自己評価をするときには、他人から見た自分の評価をある程度考慮した方が良いですね。それを判断する尺度の一つとして、給料があります。例えば、あなたの現在の年収が300万として、あなた自身はそのぐらいの価値に相応しいかどうか判断してください。そして、もしあなたがもっと価値があると思うのなら、どうやって増やすかと考える。それが自分の能力をどのように上げていくかに繋がります。

米国では新卒も中途も同じ土俵で戦わなければならない。だから、新卒の採用率が低い。それにくらべて日本はまだ新卒でも入社しやすい。日本の学生さんはとりあえず入れる会社から入って、色々な経験を身につけていけばいいと思いますね。その会社で自分を磨けると思ったら、入ればいい。そして、価値が付くと思うことは何でもやるべき。また、ビジネススクールは30歳くらいで入ればいいと思う。働いた経験がないのに、コスト削減とか色々言っても、ダメだと思いますね。

まだファイティングポーズを取れる

―今後はどういう計画をお持ちですか?

仕事を辞める気も全くないですね。本人にやる気があれば、いつまでも働いて良いと思います。今の仕事で辛いことも多くあるけど、そういった激しい仕事をするのは今のうちですしね。今務めている会社の本社から、アントレプレナー精神を持って取りくんでくれとも言っていただいているし。ボクシングで言うと、まだファイティングポーズを取れると思っています。やるべきことは多いですし、辞めることは全く意識していませんね。

それに、多くの若い人たちに腕一本で働けるような、ビジネス界のイチローになってほしいからですね。東大でも講義をしているように、若い人たちに指導し続けたい。そういう義務はあると思いますね。日本が沈没しないように、みながある専門分野で活躍してほしいと願っています。

とにかく一歩足を踏み出す

―最後に、就職活動をする学生にアドバイスをお願いします!

これからどうしたらいいんでしょうと聞いてくる学生が多いけど、そこまで悩む必要はないと思いますね。就職活動や自分の夢という実体がないものに不安を抱く必要はなくて、それらを明らかにするために、一歩足を踏み出してみてください。自分の方向性というのは、自分の様々な行動に対するリアクションで決まっていきます。ただ立ち止まっているだけじゃ何も始まりません。慎重になってもいいので、一歩踏み出して、頑張ってください。

―今回はお時間を取っていただき、ありがとうございました!

インタビューアから一言

土屋さんにインタビューをして、非常に刺激を受けました。常にグローバルで働き続けた人にとっては、常に向上心を持ち続け、努力し続けることが最も重要なことだと感じました。これから競争が激しくなる社会において、土屋さんが仰っていた「ビジネス界のイチロー」のような人材になれるよう、頑張りたいと思います。今回は大変お忙しい中、ありがとうございました!

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吉江奏太。1989年生まれ。小学6年生から高校卒業まで米国カリフォルニア州サンノゼ、サンタバーバラに滞在。Dos Pueblos High Schoolに通う。高校ではバスケ部に所属し、州大会CIFに出場。高校卒業後、日本に帰国し、一橋大学経済学部に入学。現在4年に在籍。大学では開発金融を専攻し、バスケ・サークル代表を務める。国立バスケットボール・リーグ2010主催者。