海外生活体験者・社会人インタビューvol.97

interviewee_s_235_profile.jpg ガース・ネルソン(Garthe Nelson)さん。アメリカのカリフォルニア州出身。11年前に来日し、現在は日本プロ麻雀連盟に所属するプロの麻雀プレイヤーとして活躍している。現在、全国のゲームセンターに置いてある「麻雀格闘倶楽部」というゲームで、彼と対戦することができる。また、テレビ関係や英語教師としても活躍しており、有名なものでは、テレビ朝日の「スマステーション」や同番組が出版した「ベラベラブック」にて英語監修を務める。

―今日はよろしくお願いします

こちらこそよろしく!!

全米大会優勝、SEから来日まで

―それでは、まず、どのような経緯で日本にこられたのか、簡単にお願いします。

まず、アメリカで生まれて、大学に入るまでカリフォルニアのサクラメントに住んでいました。大学は、同じカリフォルニアのサンタバーバラ大学に進学。専門はコンピューターサイエンスだったのですが、勉強の他にも、アルティメット・フリスビーにかなり力を入れていました。2年からレギュラーで、全米大会で2回優勝しました。

卒業してからは、3年ほど、アメリカでソフトエンジニアとして働きました。そこそこ儲かる仕事だったんですが、自分にとってはすごく退屈でつまらなくて、やめてしまいました(笑) それからは、大学の紹介を通して、半年ほどサイパンでウィンドサーフィンやサーフィン、テニス、英語の講師として働きました。毎日お酒を飲んで、女の子と遊んで、終わらないパーティのような感じで、すごく楽しかったですね。

日本に来るきっかけがあったのも、その時ですね。サイパンに来る旅行者や生徒に日本人がすごく多かったので、その人たちに勧められて来日しました。最初は1年くらいしかいるつもりではなかったのですが、気づいたら今年で11年です(笑) 当時から日本語の簡単なフレーズは知っていたのですが、いざ来てみると、日本語はやはり大変で、ちゃんとコミュニケーションできるまで半年ほどかかりました。

―フリスビーで全米チャンピオンってすごいですね! まさか、初めから麻雀をやりに日本に来たわけではないと思いますが、来日してからの生活はどんな感じだったのでしょうか?

最初は英語教師でもやろうと思って来ました。日本に来る外人は、みんなそう考えてるんじゃないかな(笑) 塾とか、社会人向けの英会話教室、あとは高校や中学でも教えていました。それもどこかの学校に長い期間勤めるのではなく、結構頻繁に学校を変えていました。「~が今度アメリカに帰るらしいから、彼の代わりに○○中学校で働けば?」みたいな感じで、友だちの間でいろいろ仕事をトレーディングしていましたよ(笑)

そうしているうちに、「スマステーション」の仕事がきたんですよね。所属している英語クラブのマネージャが持ってきてくれたんですが、「テレビ朝日のスマステーションという番組で英語の講師をやらないか?」と言われまして、飛びつきました(笑)

最高の仕事でしたね。毎週アイドルに英語を教えて、ラジオもやったし、収録のためにコンサートについていろいろなところに行きました。広島、大阪、仙台などの国内はもちろん、ワールドカップ予選でパフォーマンスするためにバーレーンに行ったり、モスクワフィルムフェスティバル、NASAに行ったり、普通ではできない、非常に良い体験をさせてもらいました。結局、5年間仕事させてもらったんですが、あるときディレクターが変わって、スタッフも一新されてしまいました。番組は今もありますが、もうそんなに英語にフォーカスしてはいないですね。

観光客と間違えられる

―それでは、麻雀を始め、プロになるきっかけはなんだったのでしょうか?

スマステーションの後、また学校や英会話スクールで教えていると、生徒から麻雀を勧められたんです。もともと僕はゲームが好きだったので、とりあえずやってみようと思いました。アメリカにいたころは、チェスをやっていましたから。祖父がチェスマスターの称号を持っていたので、彼に教わり、父や叔父と毎日勝負していました。元々、ゲームに含まれる競技性が好きなんです。フリスビーもそうでしたが、相手をやっつけるのが大好きなんです! もちろん暴力的とかそういうことじゃないですよ(笑)

まず、プレステのゲームと本を買って勉強を始めました。最初は訳わからなかったんですが、役を覚えたりして、何ヶ月か経つと、急に「プロになろう! なれる!」と思ったんですね(笑) まずは、町田のノーレート雀荘で練習し、そこそこ手応えを掴んで、いざ歌舞伎町に勝負しに行きました。最初に店に入ったら、店員も困っていて「ここはレストランじゃないんだよ」とか、いろいろゆっくり日本語で喋られました(笑) まさか僕が麻雀しにきたとは思わなくて、観光客が間違えて入ってきたんだと思ったんでしょうね。

初戦の結果はボロ負け(泣) 麻雀の怖さとおもしろさを再確認しました。でも、それからも雀荘で練習しながら、実践の中で経験を積んで、あるとき日本麻雀協会に連絡しました。そして、テストを受けて、合格! 6ヶ月は研修生として勉強して、それからリーグに入り、今に至ります。もうプロになってから5年経ちます。早いですね。

海外における麻雀の知名度

―アメリカ人のプロ雀士というと、かなり珍しいと思うんですが、日本以外での麻雀の知名度や捉えられ方、世界と麻雀の繋がりというのは、現在どのようなものなのでしょうか?

実際、アメリカでの麻雀人口はほぼゼロといっていいでしょう。最近、アメリカにも麻雀連盟ができたんですが、規模もそんなに大きくないですし、なにより、一般への知名度が皆無です。でも、ヨーロッパではリーチ麻雀の結構大きなコミュニティがあります。大会もこの前ドイツで行われて、ヨーロッパ各国からプレイヤーが集まっていました。もちろん、中国、日本、アメリカからの参加者も多かったですね。

日本の麻雀のことをリーチ麻雀というんですよ。その他に有名なものに、中国の麻雀があって、海外の大会とかだとこっちのほうがメジャーだったりします。WSOM(注)では、中国と日本のルールが混ざったものが採用されていますね。でも、日本のリーチ麻雀が一番よいルールだと思います。深さが全然違う。僕もそう思うし、周りのプロプレイヤーも、皆そう言っています。

(注:WSOMとは、World Series of Mahjongの略。世界で一番大きな麻雀の賞金トーナメント。毎年マカオで行われている。)

―やはり、日本と中国では、麻雀のルールが違うんですね。世間では、麻雀をテーマにした漫画がかなり人気ですよね。ガースさんもこういったものを読んだりするんですか?

漫画は好きですね。麻雀をテーマにしていないものも読むし、当然近代麻雀とかも毎週読んでいます(笑) でも、有名で人気があるものは、実はあまり好きではありません。だって、全然物語が進まないし、1話使って、1回牌引いて終わり(笑) 一晩の麻雀の話なのに、実際の時間ではもう10年くらい連載しているって、おかしいと思いません? それと、あまり非現実的なものも好きではありません。毎回毎回役満がきたり、麻雀そのものじゃなくて、イカサマに焦点が当たっていたりするものはあまり読まないです。

―今チラッとお話が出ましたが、実際の麻雀の世界で、イカサマっていうのは存在するんでしょうか?

結論から言えば、今はもうほとんどないです。自分で牌を並べていた時代は、積み込みとか、いろいろなイカサマが実際に行われていたみたいですが、自動卓が普及してからは、ほぼゼロといっていいでしょう。もちろん、プロのリーグであれば、イカサマがないのは当然です。これと関係したことなんですが、WSOMがあまりポピュラーではない理由のひとつに、自動卓を使っていないということがあると思います。正直、自動でなければ、馬鹿らしくて、日本の良いプレイヤーたちは参加しようと思わないですよ。最初に全部の卓を導入するのにはお金がかかるのかもしれないけど、一番必要な投資だと思います。

完璧なバランス、完成された美しいゲーム

―麻雀の魅力とは、いったいなん何でしょうか?

「深さ」ですね。深さといっても、それが「情報」に基づいたものだということが私は好きです。きみもポーカーのセミプロみたいなものだろうけど、ポーカーって公開されている情報が少ないじゃないですか。テキサスホールデムだったら、結局見られるカードは7枚しかない。もちろん他にも、ポジション、ベット額、ボディランゲージなど、いろんな要素があると思うんだけど、やっぱり情報が少ない分、センスとか運の要素が大きい。

その点、麻雀は卓上に出ている情報が多いので、そこからいろいろな予測を立てられるんです。他の人たちが何を狙っているのか。自分の手が完成する確率はどのくらいなのか。全体的な流れはどのようなものなのか。もちろんセンスや勘、運も必要なのですが、しっかりとした情報から戦術を立てられる。そして、さらにそれをとてつもなく深いレベルまで考える必要がある。これが麻雀の一番の魅力だと思います。

雀荘で遊ぶくらいだったら、運の要素ももちろんありますが、リーグでは完全なスキルゲームですね。やっている相手のレベルも高いし、勝負している時間も長いので、運だけでは絶対に勝てない世界です。ポーカーほど情報が少ないと、運の要素が強すぎるように感じてしまいます。逆に、チェスのような完全情報公開ゲームでは、不確定な要素が少なすぎて、味気ないんです。麻雀こそが完璧なバランス、完成された美しいゲームだと私は思います。

―なるほど。そう言われると、僕もポーカーだけではなく、麻雀もやりたくなってきました(笑)

結構テレビの出演頻度は高い

―プロ雀士といわれても、あまり身近にはいない存在なので、具体的な毎日の生活を教えてもらってもいいですか?

現在は麻雀の他にも、テレビに出演したりやナレーターみたいなこともやっていて、最近では、日経ジャパンというNHKの海外向けプログラムとか大学の英語教材のナレーターをしています。テレビは、俳優というほどのものではないですが、結構頻度としては露出していますね。一番多いのは、なんといっても再現ドラマです。「ベストハウス123」や、「世界仰天ニュース」とかでは、ほぼ毎週僕を見つけられますよ。ドラマや映画でもちょっとした役で出ていたりして、有名なのだと「菊次郎とさき」のアメリカ兵役とか「東京大空襲」のアメリカ兵役。って、ほとんどアメリカ兵ですね(笑) まあしょうがないか。

とは言っても、やはり、本職は麻雀なので、ほぼ毎日雀荘のゲストやリーグで麻雀していますね。さっきも、ゲームセンターで「格闘倶楽部」をやっていました(笑) プロプレイヤーなら、やはり毎日麻雀をやらなければいけないと思います。ミュージシャンが毎日楽器を練習するのと同じです。大体毎日8時間は打っているし、時々テレビの仕事で麻雀ができないと、なんだかサボっているような感覚になります。だけど、そういう日でも、家に帰ってからオンラインやったり、ゲーセンで格闘倶楽部やったり、結局は毎日麻雀していますね。なにより、自分が「麻雀やりたい!」と思うので問題ないです!(笑)

日本の麻雀を世界に広める

―なるほど!(笑) やはり、自分の好きなことが仕事になっているって、素晴らしいですね! それでは、これからの方針や目標、何かあったら教えてもらえますか?

これからもずっと日本にいるつもりです。母親は帰って来いって言ってるけど、僕は日本のほうが好きです。いろいろな仕事や経験ができるし、日本のリーチ麻雀をもっと世界に広めたい。そのためには、日本を拠点にしているのが一番いいと思うので、これからもこの生活を続けて生きたいと思います。時々、アメリカの海やサーフィンが恋しくなるけど、すべてが完璧な場所なんてないですからね。

自分のこれからの課題としては、「良い敗者になること」ですね。これはよく麻雀よりもポーカーで言われていることだと思うんですが、勝負に熱くなるあまり、バッドラックで負けたときに、まだかなり精神的にぶれてしまいます。別に暴れたりするわけではないんですが(笑)、態度に出たり、なにより、その後のプレーに影響してしまうんです。でも、本当のプロフェッショナルプレイヤーならば、当然負けるときも一流でなければならないと思います。

リーチ麻雀を世界に広めるって言いましたが、最近はそのためのウェブサイト(Reach MAHJONG.COM)もやっています。リーチ麻雀のルールや戦略を、英語で世界に広めるっていうコンセプトです。最近では、WSOMなどの海外トーナメントも開催されているのですが、あれは中国のルールと日本のルールが混ざったものなので、やはり日本のルールが世界中に広まったら嬉しいですね。やっぱり、アメリカから日本に来て、そこで麻雀プロになった自分はかなり珍しい存在だと思うんです。そんな自分の役割は、世界とリーチ麻雀を繋げることじゃないかなと思っています。そのために、僕自身が強く、有名になることも含め、これからも努力していきたいですね。

―最後に、日本の大学生、若者になにかメッセージをお願いします。

麻雀しろ!!(笑)

―どうもありがとうございました(笑)

Reach MAHJONG.COM :
http://reachmahjong.com/en/

インタビューアから一言

普通に暮らしていては、なかなか話す機会がない麻雀プロという職業の方に話を聞けて、非常に貴重な経験となりました。僕は日本人ですが、麻雀はやらずポーカーしかしないので、アメリカ人であり、プロ雀士であるガースさんとの対談は、とても興味深くおもしろかったです。本業が麻雀ということや、それ以外にもテレビ関係やいろんなことをやっていて、本当に人生を楽しんでいるという印象をガースさんからは受けました。これからも、ご活躍を楽しみにしています!
高橋篤哉。1989年東京生まれ。日本の小、中学校を卒業後、高校の3年間オーストラリアに留学。Cairns State High Schoolを卒業し、2008年に立教大学経営学部経営学科に入学。現在4年に在籍。インカレのポーカーサークルに所属し、代表を務める。