海外生活体験者・社会人インタビューvol.104

interviewee_s_104_profile.jpg.jpg 小池恭平さん。1959年東京生まれ。同志社大学経済学部を卒業後、アパレル商社に入社。8年間勤めた後に、コンサルティング会社に転職。5年目に一旦会社を退職し、ニューヨークへ語学留学に。翌年帰国し、同コンサルティング会社に10年間務める。その間、04年から08年にかけて、上海で同社の支社の立ち上げに携わる。09年に独立し、株式会社ファームラインを設立する。紳士用オーダースーツの販売を主な事業としており、現在は赤坂と上海に拠点を展開している。

~インタビューは昨年9月に行われました~

ビジネスマンの父にあこがれた

―はじめに、就職先にアパレル商社を選ばれた理由をお聞かせください。

まず、商社を入ったことについてですが、父の影響が大きかったと思います。私の父はビジネスマンで、頻繁に各地を飛び回っていました。東京出身の私が関西の大学に入学したのも、そもそも父の転勤の関係でしたし。忙しくも楽しそうに働く父をずっと見ているうちに、気がつくと私も彼のようなビジネスマンになりたいと思うようになっていましたね。

数ある業界の中でアパレルを選んだのは、その業界に将来性があると感じたからです。いうのも、私が大学を卒業したころの日本は、世界的な繊維の一大生産地で、国際的にも非常に競争力があったんです。学生時代に、京都で小物バッグや草履作りのアルバイトを経験したことも、私がアパレルを選ぶきっかけとなりました。

―商社に8年勤めたのちに、コンサルティング会社に転職されたようですが、何かきっかけがあったのですか?

はい。私が元いた商社では、工場に注文を発注し、出来た製品を小売店に送る「デリバリー」という業務に携わっていました。それはそれで刺激的な仕事で、学ぶことも多かったのですが、長年同じ仕事に従事しているうちに、自分の仕事、ひいてはアパレル業界全体が、単一的で変化が少ないのではないかと思うようになりました。それ自体は悪いことではないし、人によってはそれを好む人もいるでしょうが、私は新しいものに触れて、もっと自分を成長させたいと前から思っていたので、転職を考え始めるようになりました。

そんなとき、社員研修のために会社がコンサルタントの方を招いて来てくれたのです。その方を見て、私は「これだ!」と思いましたね。自分が持つ知識・ノウハウで、他者の成功をサポートし、かつ、人を相手にする「堅い」仕事に就きたいと。

アメリカ人も恥ずかしがりや

―その後アメリカへ留学に行かれたようですが。

はい。家族を連れてニューヨークに行きました。私はコロンビア大学の語学学校に入り、そこで英語を1年間学びました。

もっとも、留学する過程で、私は長年お世話になった会社を一旦退職することを余儀なくされたのですが、これは少しキツかったです。そこでの仕事は本当に有意義でしたし、会社も順調に成長していたようでしたから。

でも、アメリカという、あらゆる分野で世界の最先端を行く国を一度直にこの目で見ておきたかったし、職業柄アメリカ人のものの見方や考え方、アメリカ流のコンサル手法やニューヨークの最新ビジネスも知りたかったので、留学を決断しました。

―アメリカで見て来たものの中で、特に印象に残っているものは何ですか?

主に3つあります。

1つ目は、中国人・韓国人留学生の多さです。私が通っていた語学学校では、特に韓国から来た方が約半数を占めていました。日本人はむしろ相対的に少なかったのですが、富裕層の方やアメリカでミュージシャンを目指す若者といった、その分個性的な方々が多かったです。様々な機会に彼らと話をすることで、私は自分が今まで知らなかった世界を垣間見ることが出来ました。

2つ目は、アメリカ人にも案外恥ずかしがり屋が多いということです(笑) 日本にいた頃は、「アメリカ人はみな自己主張が強い」という、ステレオタイプ的な観念を持っていたのですが、アメリカで彼らと付き合ううちに、アメリカ人の中にもさまざまな人たちがいて、中には多くの日本人と同じく、シャイな人もいるということに気づきました。今からしてみれば当たり前のことかもしれませんが、当時の私にとっては大きな発見でした。おかげで、それ以降は、アメリカ人相手に憶することなく、対等に付き合えるようになったと思います。

3つ目ですが、多くのアメリカ人がボランティア活動に従事しているということです。例えば、私の語学学校のクラスで英語を教えてくれたアメリカ人の先生は、外で仕事を持つ傍ら、ボランティアで英語教師の仕事を引き受けておられました。本業で既に大忙しなのに、なぜわざわざボランティアに手を出すのか聞いてみたところ、「自分に負荷をかけることで、自分の能力を高めるため」という答えが返ってきました。このような、常に自分の限界に挑戦し続けるという考え方が、多くのアメリカ人の間で共有されているのを見て、アメリカは本当にすごいと思いましたね。

上海で中小企業をサポート

―帰国後は、元のコンサルティング会社で上、海支社の設立に携われたと伺いしました。

その通りです。04年以降、多くの中小企業が中国へ進出するようになったのですが、そうした企業さんたちの中には、中国式のビジネスに対する理解が不十分で、中国での経営に苦労しておられる方が少なからずおり、そうした方々をサポートする目的で、私がいた会社は上海に支社を作ることに決めました。

―中小企業ですか……。そうすると、日本の大企業は当時あまり中国に進出していなかったのですね?

いえいえ。むしろその反対で、大手企業の大半は、2000年頃から、すでに中国に進出していました。そのため、そうした企業さんの下請けをしておられた中小企業への受注が減り始めたため、中小企業さんたちも中国に行くことになったのです。

そうした企業の方に対して、コンサルのサービスを提供するにあたって、まずは念入り市場調査を行いました。これに1年ほど費やした後に営業を始めましたが、その際、従来の会社回りだけでなく、中国のビジネス事情等に関するセミナーを開催したりすることで、私たちの会社を信頼していただけるよう心掛けました。私がいたその会社は、日本でそれなりの知名度があり、かつ多くの会員を有していたので、この戦略はそれなりに成功を収めたのではないかと思います。

“Business Person Support is Our Business”

―株式会社ファームラインを一昨年創業なされたようですが、具体的にどのようなサービスを提供なされているのですか?

弊社では、主に中国で「80後」と呼ばれる、30代から50代までの男性の方をターゲットに、ビジネススーツを販売しています。

また、弊社はスーツの販売のみを事業としていますが、提携している工場は日本にあり、生地も日本、イギリス、イタリアといった、品質の高いものを使用しています。お客様のご要望やサイズに合わせて作ることで、お客様だけのオーダースーツを提供することができるのが私たちの強みです。

―既製スーツはいうまでもなく、オーダースーツに関しても、既に日本から多くの企業が進出していると思うのですが。

確かにそうです。でも、ファームラインのスーツは他社のとは少し違います。

―それはどういうことでしょうか?

違いは価格帯にあります。現在、中国では1万円以下の既製スーツと、10万円を超えるオーダースーツが販売されており、価格は二極化しています。そこで、私たちはその中間価格、すなわち5、6万円台でオーダースーツを提供することで、「安くて品質の悪いのは嫌だけど、そこまでスーツにお金をかけられない」というお客様を取り込み、中国、ひいては日本で、私たちがスーツにつける値段を適正価格として市場に定着させてしまおうと考えています。

―それでは、中国での事業に主に力を入れておられるようですが、日本でも店舗を構えておられるのはなぜですか?

意外に思われるかもしれませんが、日本で店舗を持つことは中国で商品を販売するうえで実は重要なのです。

というのも、日本の消費者が製品の品質に厳しいことは中国でも知られているので、日本のお店でも販売していると伝えると、「日本でも売られているのなら大丈夫だ」と中国のお客様は安心して買って行かれるのです。

もちろん、日本では事業を展開する予定がないということではありません。日本では、主にオフィス街を中心に店舗を置こうと考えていて、その第1号店として赤坂に店を置きました。

―ビジネスマンと言えば、オフィス街というのは分からなくもないですが、その必然性はないですよね? なぜ敢えてオフィス街に店舗を置かれたのですか?

ビジネスになると私が判断したということもありますが、弊社の企業理念が主な理由です。

私たちの会社は“Business Person Support is Our Business”をモットーにしており、スーツの販売はその手段の1つにしかすぎません。そもそも、私たちがスーツを選んだのも、スーツが社会人の仕事着だからであって、必ずしもスーツに拘っているというわけではありません。

また、ビジネスマンのサポートに話を戻しますが、弊社ではスーツの販売以外に、お店でビジネス書を貸し出したり、勉強会を主催したり、私がコンサル時代に培った人間関係を活用して、多様な職種に従事しておられる方同士を引き合わせたりして、新しいビジネスが生み出されるのを手助けしています。

―最後に、貴社の今後の展望を教えてください。

長期的には、欧米に進出して「サムライスーツ」を売りたいと考えています。欧米のビジネスマンの中で和服の好きな方は多いですし、和服の生地は着ていて快適なので、スーツの裏地を和服にしたらきっと大歓迎されるのではないかと考えています。

―今日はお忙しい中お話をしていただき、本当にありがとうございました!

株式会社ファームライン:
http://www.firmline.co.jp/

インタビューアーから一言

小池さんとは、twitterを通じて知り合いました。お会いしたところとても気さくな方で、初対面の私からの突っ込んだ質問にも丁寧に答えてくれました。ビジネスコンテストでビジネスの難しさ体感した私にとって、経験豊富な小池さんの話はどれも非常に勉強になるものでした。また、将来の進路について悩んでいた私に、的確なアドバイスまでしてくださり、本当に嬉しかったです。インタビューを受けてくださって、本当にありがとうございました。

吉村政龍。1989年東京生まれ。小学5年から約8年間台湾に滞在。Dominican International Schoolを08年に卒業し、帰国。予備校で約1年間受験勉強に明け暮れた末に、京都大学法学部に合格。入学当初は、大学で学ぶことの意義に疑問を抱き無気力に陥ってしまったが、2回生になった昨年からは、法学と経済学の勉強を両立させながらロースクールを目指すと同時に、いろいろな新しいことに挑戦することを決意した。