活動報告「世界の学校から」vol.34 鈴木優雅

今回は、一橋大学経済学部3年の鈴木優雅さんに、ウェールズの首都カーディフにあるKings Monkton Schoolをご紹介いただきます。カーディフの中心地の住宅街にある、家を改築したような小さい学校で、中学校は1学年30名、高校は20名しか生徒が在籍しないそうです。自習室には、小さなキッチンとソファ、テレビにラジカセ、さらにビリヤード台。体育や部活は近くの公園に出かけ、お昼ご飯はサンドイッチを買って外で食べる。日本ではちょっと考えられないような学校です。

report_s34suzuki8.jpg 鈴木優雅さん。1988年東京都生まれ。生後間もなくイングランドに移り小2まで過ごす。帰国後、東京のインターナショナルスクールChristian Academy in Japanに編入。中学2年から高校卒業までをウェールズで暮らし、Kings Monkton Schoolを卒業。大学受験のため帰国し、一橋大学経済学部に入学。大学では数理ファイナンスを専門に勉強中。

活動報告



私は中学の途中から高校卒業までイギリスのウェールズに滞在していました。今回は、卒業したKings Monkton Schoolとウェールズについて紹介していきたいと思います。 report_s34suzuki1.jpg

ウェールズの首都カーディフ

中学高校の5年間を過ごしたウェールズのカーディフですが、帰国してよく「どこ?」と聞かれます。「元サッカー日本代表の稲本潤一がプレーしていたカーディフシティFCがあるとこ」としか答えられませんが、頑張ってウェールズの紹介をします。


report_s34suzuki7.jpg ウェールズはいわゆる「イギリス」を構成する一国で、カーディフはその首都です。イングランドの西に位置しています。気候は、Four seasons in one dayと言われるように、「イギリスの気候」をイメージしてくれたらわかりやすいと思います。体感ベースで話しますと、とにかく雨が多くて、どんよりしている日が多かったですね。

知名度は低いですが、多くの著名人を輩出しています。サッカーではマンチェスター・ユナイテッドのライアン・ギグスやトットナム・ホットスパーのガレス・ベイル、リヴァプールのクレイグ・ベラミーとかです。シャンプーのCMなどで日本でも有名な女優、キャサリン・ゼタ=ジョーンズもウェールズ出身です。

名所でいえばカーディフ城などもありますが、もっとも知名度が高いのは、プレミアリーグFAカップの決勝戦が行われていた、ミレニアム・スタジアムでしょうか。日本ではサッカー好きの間で有名ですが、ラグビーでも「ウェールズ代表の聖地」と呼ばれている場所で、名所となっています。

公用語は英語とウェールズ語で、標識などは全て二つの言語で表記されています。ただ、滞在していた5年間、ウェールズ語を完璧に話せる人には一人も出逢えませんでした。

Kings Monkton School

Kings Monkton Schoolは首都カーディフのど真ん中に位置しています。駅から10分ほど歩いた、住宅街に差し掛かったあたりにあり、家を改築したような小さい学校です。 report_s34suzuki2.jpg


中学校時代は1学年30人程度。イギリスの高校は2年制とはいえ、高校生全員合わせても20名程度と、規模の小さい学校です。その分、生徒一人ひとりを先生がしっかり把握しており、面倒見のいい学校です。

面倒なところは、普通なら体育も部活も校内のグラウンドでするところを、いつもバスで近くの公園まで行き練習しなければならない点です。ただ、その分、バス内でのくだらない世間話を通じて、仲良くなるきっかけがあります。

ラグビー部とスクールバス

印象的だったエピソードは、当時の体育顧問でラグビー部顧問の先生がバスを盗まれた話です。公園まで行き、バスをいったん停車し、荷物を下ろしグラウンド整備をしている最中、知らない男がバスに乗って消えてしまいました。キーを差しっぱなしにしていたのもどうかと思いますが、Kings Monkton Schoolなんて書いてある、古くてダサいスクールバスなんて、盗んで何のメリットがあったのか。今でも疑問です。幸い、保険も下りて、バスも新しくなったので、結果としてちょっと得をしたそうですが。

report_s34suzuki3.jpg スクールバスを盗まれた顧問は、実は元プロ選手で、フランスリーグでプレーしていた人物でした。彼の働きもあり、在学当時、学校のラグビー部は強豪の部類でした。年代別ウェールズ代表2名、カーディフ選抜が10名以上。私はサッカー部とラグビー部、両方に入っていたのですが、今考えるとラグビー部はとても恵まれた環境にありました。ちなみにコーチは、練習中は鬼のように怖かったのですが、普段は優しく、色々と良くしてくれました。どうも、日本の「体育会」が大好きらしく、色々得るものがあると話していました。


コモン・ルームと学業

学業ですが、中学までは、ほとんど決められた授業に沿って、大人数で講義を受ける「普通の学校」です。一方で、高校は少し変わっています。Kings Monkton School特有というわけではなく、イギリスの高校全般のことですが、授業形式が大学のようになっていました。

イギリスのカリキュラムでは高校は2年間で、その間に履修する科目を選択します。2年間の授業と統一試験の総合成績が最終成績となります。選択科目も多くて5つと言われ、一般的には4科目だけ履修するため、大学のように「空きコマ」ができます。その時間は「自習時間」とされ、どの学校も高等部のための自習室が用意されています。Common Roomと呼ばれ、そこの維持管理は生徒にかなりの裁量権が委ねられています。

Common Roomには、小さなキッチンとソファ、テレビにラジカセ、さらにビリヤード台までありました。本棚には新聞や雑誌、参考書が用意され、リラックスできる環境が整っています。ただ、勉強が捗る環境ではなく、結局図書館で勉強することが多かったです。

一方で、座学だけでは学べないことを多く学べたと思います。新聞や雑誌で最新のニュース読み、自然と意見交換や議論をしていました。当時、あまり意識はしませんでしたが、今思うと物事に対する様々な視点を持つ重要性をここで学んだと思います。 report_s34suzuki4.jpg

ビリヤード台の維持

あとは、ビリヤード台。ただの遊び道具とはいえ、この台はメンテナンス費用が馬鹿にならなかった。キューはすぐにぼろぼろになるし、布はすぐに破け、チョークもボールもなぜか消えてしまう。最初はよく使う人が自腹でメンテナンスしていたのですが、ある日から生徒が自主的にワンプレー1ポンドのルールを設け、貯金箱が設置されました。

report_s34suzuki5.jpg 素行が決して良くない生徒もいましたし、正直一カ月も経たずに貯金箱が盗まれると思っていたのですが、不良生徒も律儀に貯金箱にお金を入れ、消えることはありませんでした。また、有料になったこともあり、みんなビリヤード台を大切に扱うようになり、キューがおられることも、ボールやチョークが消えることもなくなって、コストが大きく減りました。社会ってこうやって上手く回っていくのだろうなと思いました。また、こういったことを学ぶために、学校はこのスペースを用意しているのだろうなと意図がわかりました。

案外美味しいサンドイッチ

休み時間は、学校が都心にあったこともあり、サンドイッチを買って外で食べることが多くて、楽しかった。晴れていたら食べながらサッカーをして、雨が降っていたら近くのバーでスヌーカー(イギリス式ビリヤード)やダーツをしていました。

イギリスは飯が不味いと言われ続けていますが、案外そうでもなく、美味しくて安いサンドイッチ屋は多かったです。サブウェイなんかもありましたが、個人店の方が安くて美味しいです。南欧や中央アジア系の移民の方が営業しているお店も数多くあります。定番からちょっと変わったエスニックなメニューまで幅広く、移民が多いメリットが意外なところで発揮されています。

また、チェーンのベーカリーも競争社会で揉まれたおかげか、味もかなりしっかりしています。ちなみに、私のお気に入りはケバブで、週3でケバブを食べていました。無駄に多いフライドポテトに酢と塩を大量にかけて、野菜たっぷりのラム肉ケバブにコーラ。このセットで4ポンドは安かったです。私は下品で好きではなかったのですが、塩と油と酢がしみ込んだ巻紙をガムのように噛む習慣もありました

「イギリスの飯は不味い」はかならずしも正しくない。当時は景気も良く、個人所得が伸びていて、学校の先生までもが株式や不動産に投資し、高級自動車にのっているプチバブルでした。消費の増大により、外食産業は潤い、おしゃれで美味しいお店もどんどんできていたし、人材も移民という形で供給されていました。

イギリスの中の日本

在学中、これは学校特有のことだったのかもしれませんが、思ったのが、イギリス人は思った以上に日本に関心があるということです。私が渡英した十数年前までは、多くの日系企業が拠点を持っていたという背景もあるかもしれないですし、日本人である私に気を使ってくれていた面もあるのかもしれません。 report_s33ikeda6.jpg


学校の小学生は、ベイブレードと遊戯王とポケモンで遊んでいて、みんな「ゴジラ」を見て育ったらしく、私よりゴジラシリーズに詳しかったです。なぜかやたらにJリーグに詳しい人も多かったです。ラグビーのコーチは「体育会」にある種の憧れを抱いていましたし、商学の担当だった先生は、やたら「TOYOTA KAIZEN」という言葉を使い、生徒に説教していました。


最後に

ウェールズの5年間で本当に多くを学びました。それは座学的なものもありますが、「気付き」という形で学ぶことが多かったです。英国では、日本人という外国人であり、そういった視点を持って生活できたからだと考えています。留学で得られる最大のものは語学ではなく、マジョリティとは違う視点を通じて知る世界、その経験なのだと思います。


Kings Monkton School :
http://www.kingsmonkton.org.uk/